自動運転時代の新規ビジネスモデルの解析事例も

──技術者塾の講座では、「ビジネスモデルフレームワーク」のパート(別講師)が多いようです。その狙いは何でしょうか。

山内氏:ずばり、狙いは、ビジネスモデル特許の情報解析との補完です。上述した通り、「特許マーケティング2.0」の肝の1つがビジネスモデル特許の情報解析ですが、実際に試してみると、意外にも難易度が高いことが分かります。

 実は、1件の特許(出願)だけで画期的なビジネスモデルが一義的に導出できることは稀だからです。そのため、何らかの創意工夫が必要となります。しかし、その結果として客観性を大きく損なう虞(おそれ)があり、注意が必要です。

 そこで、私が着目したのがビジネスモデルフレームワークです。これを活用することにより、恣意性を抑えて客観性を確保しつつ、併せて網羅性も確保しようと考えました。

 幸い、互教の精神でお付き合いしている知財アナリスト仲間の1人、岩谷産業の川邊光則氏が、知財とビジネスモデルをつなぐフレームワーク研究に明るいため、まず同氏に相談しました。すぐに意気投合しましたが、2人ともビジネスモデルに特化したコンサルタントというわけではなく、また特にIoT(Internet of Things)分野に詳しいわけでもありませんでした。そこで、川邊氏の人脈からIoTにも明るいプロのビジネスモデルコンサルタントを探したところ、ビジネスイノベーションハブ代表取締役の白井和康氏と巡り会いました。この3人で意気投合して議論した末に出来上がったのが、本講座というわけです。

 白井氏には、ビジネスモデルの総論と、知財が絡む事例の紹介をお願いしました。続く川邊氏には、知財とビジネスモデルをつなぐフレームワークの総論と、私の解析結果の補強(「見える化」)をお願いしました。

 3人で議論を重ねるうちに、いずれのパートも重要であり、三位一体で不可分と認識するに至りました。結果的に本講座では、白井氏と川邊氏のパートの全体に占める比率が当初の想定よりも大きくなりましたが、受講者にとって有益な黄金則を成すものと考えています。

──本講座はどのような方を対象としていますか。受講によって期待される効果のイメージと併せて教えて下さい。

山内氏:製造業やサービス業といった「業種」も、大企業や中小企業といった「規模」も、さらには開発職や経営企画職といった「職種」も、全く問いません。「ものづくり」や「ことづくり」の領域で自社やクライアントに貢献したい方でしたら、どなたにもお勧めです。

 具体的には、例えば、開発職の方でしたら、自社の開発テーマの選定や既存テーマの見直しに関してヒントが得られます。実際、私のパートでは、機能性素材の新規用途開発などの実践事例を紹介する予定です。また、経営企画職の方でしたら、新規ビジネスモデルの開発や新規の有望事業分野の選定、さらには有望な出資先・買収先の選定などのヒントを得ることができます。より具体的には、私と川邊氏のそれぞれのパートでは、自動運転(車)時代の新規ビジネスモデルの解析事例を紹介する予定です。

 また、中小企業経営者の方でしたら、自社技術の有望な売込先を探索するヒントを得られます。より具体的には、私のパートで位置計測技術のベンチャー向けに有望な売込先を探索した実践事例を紹介する予定です。また、知財専門職の方でしたら、自社やクライアントのニーズに応じ、自ら知財情報解析を実践するための基礎を学べます。

エンドユーザーのニーズを先回りして把握

──本講座では、番外編も用意されるそうですが、その概要を教えて下さい。

山内氏:発展途上形のため配布テキストからは割愛しますが、番外編として「ニーズドリブンバリューチェーン」を紹介する予定です。日本企業は、ハイテク製品向けの機能性素材や主要部品などの川上産業で高い市場シェアと収益性を確保しており、これをいかに維持、強化するかが重要です。

 一般論となりますが、川上プレイヤーとして3Dプリンター用材料メーカーを例に挙げれば、直接の顧客となる3Dプリンターメーカーの意向に依存しやすく、受け身の材料開発になりがちです。

 そこで、仮に3Dプリンターメーカー(川中)の特許情報をグローバルに分析し、さらにその先の航空機エンジンメーカーである米General Electric社など(川下)の特許情報をグローバルに分析すれば、川上プレイヤーであっても川下プレイヤーのニーズをグローバルに把握できます。つまり、客観性と網羅性に富む戦略提言が可能となるのです。

 補足すると、川上(材料など)-川中(装置など)-川下(完成品)というバリューチェーン上、それぞれに属する主要プレイヤーを分析し、ニーズ(課題)とシーズ(課題解決手段としての技術)の橋渡しを行います。エンドユーザー(川下)ニーズを競合に先回りして把握し、自社(川上)技術(シーズ)を生かした開発テーマの選定などに活用する手法、これこそが「ニーズドリブンバリューチェーン』なのです。  

 なお、私自身、互教の精神でさまざまな専門家とお付き合いし、時には実証実験的な取り組みにも参加しています。つまり、「ニーズドリブンバリューチェーン」はその取り組みの主要テーマの1つでもあります。本講座を通じ、互教の精神でのお付き合いや、実証実験的な取り組みに賛同いただける方々との新たな出会いを楽しみにしています。