無線通信の市場・技術に、新たな動きが次々に起こっている。従来にない新しいワイヤレス機器の開発のために、アンテナ設計の本質を理解する重要性が高まっていることから、日経BP社は「ワイヤレス機器開発の要諦、アンテナ設計の本質」と題したセミナーを、技術者塾として2017年4月21日に開催する(詳細はこちら)。本セミナーで講師を務めるアンプレット通信研究所の根日屋英之氏に、無線通信とアンテナ設計について、新たな市場の動きや技術のトピックス、そして無線通信やアンテナを理解するために必須の電磁気学を身に付けるコツなどについて聞いた。(聞き手は、田中直樹)

――無線通信とアンテナ設計について、この1年の新たな市場の動きや技術的なトピックスについて、ご紹介ください。

 幾つかありますが、その中でも話題が多かったUHF帯RFID(以下、RFIDと記す)について紹介します。

 まず、市場の動きについて。「アンテナは電波を飛ばすための部品」という概念を皆様はお持ちだと思いますが、「アンテナから電波が飛ばない条件をビジネスに活用する」という“逆転の発想”の製品が出てきています。

 病院で点滴を受けている場面を想像してください。点滴袋の薬の中にRFIDを浸けてしまいます。薬は液体なので、その中では電波は大きく減衰します。また、アンテナ周りの薬は空気に比べると誘電率が高いので、アンテナの共振周波数が変わります。この環境では、RFIDリーダーからRFID(タグ)を呼び出しても応答が返ってきません。しかし、点滴袋の中の薬がなくなると、RFIDの周りは空気になりますので通信ができる環境になります。この特性を利用すれば、点滴袋の薬がなくなったことを知ると同時に、RFIDを用いることによってどの点滴袋かを識別することができます。

 技術的なトピックスの一例として、RFIDアンテナの小型化において、平面構造のアンテナから3D(立体)構造のアンテナへの移行が始まっています。例えばメアンダ構造(平面構造)のアンテナでは、平行に対向する放射素子に流れる電流が逆向きになった部分では、各々の放射素子で発生する磁界が相殺されてしまい、アンテナ利得の低下が起こります。しかし、立体構造では、対向する放射素子に流れる電流が逆向きになる部分を減らすことができ、小型化をしながら利得の低下を抑えることができます。