──多変量解析を使わない場合のリスクを教えてください。

皆川氏:先の塗装で言えば、多変量解析を使わないと均一な膜厚を得られない可能性があります。クルマの外板の部位によって膜厚がばらばら。鋼の強度を高めるための熱処理工程では、熱処理条件をどのように絞り込めばよいか分からない可能性があります。

 めっき工程を考えてみましょう。「亜鉛めっきの厚さを10±2μmにせよ」と言われたら、あなたはどうしますか?

──めっきの専門家ではないのですが、標準的なめっき条件を設定して、時間を計っていく方法を採ります。めっきを開始してある程度時間が経ったら、めっきの厚さを測る。厚さが足りなければ、さらに何分か待って、めっきの厚さを計測する。こうして10±2μmに達するまでの時間をめっきを施す時間として設定します。

皆川氏:残念ながら、あなたの会社はコスト競争力で負ける可能性があります。めっきには、電流値や面粗度、組成、時間、電流のかけ方などさまざまな条件があります。多変量解析を使えば、そうした条件の中からめっき厚に大きく寄与するものを選び出すことができる。例えば、電流値を大きくすることをベースに、他のいくつかの条件を整える。すると、わずか2分間で10±2μmのめっき厚を得られるかもしれないのです。

 しかし、多変量解析を使わないあなたは、電流値を変える効果の大きさを知らず、時間しか見ていなかった。それでもめっき処理はでき、製品を造ることはできる。しかし、生産効率を落としていることには気付いていません。ここでは時間、すなわち生産効率に着目しましたが、品質に対しても同じです。多変量解析を使わなければ、生産効率も品質も高めることができないのです。

 逆に、トヨタグループが多変量解析をよく使うのは、多変量解析が「最適品質を最高の効率で得られるツールである」ということを理解しているからでしょう。