──工場においてマネジメントを担う管理者は今、どのような悩みを抱えているのでしょうか。

古谷氏:工場のマネジメントを担う管理者は、「2つの落とし穴」にはまって苦しんでいるのではないかと考えています。

 第1の落とし穴は、作業の標準化の問題です。ものづくりにおけるQCDの確保において、作業の標準化は必要不可欠な取り組みです。本来は「各工程で何をしないとQCDが確保できないのか」という作業上のポイント(ノウハウ)を明確にし、それを標準化することが重要なのですが、現状の作業を表面的に標準化してしまうと、肝心のノウハウが伝わらないまま、動作としての作業のみが伝わる結果となってしまいます。

 つまり「標準化を進めるほど、ノウハウが薄れていく」という落とし穴です。作業標準や業務フローを作成するためには、ものづくりや品質造り込みの基本をまず理解することが重要です。しかしマネジメントを担う管理者自身を含めて、社内にそのような基本を指導できる人材が極めて少なくなっていることが悩みどころではないかと考えています。

 第2の落とし穴は、徒弟制による人材育成の弊害です。「先輩の背中を見て学べ」というのは、特に高度な技能を要する職場では今でも根強く残っている教育スタイルです。長期間の育成を経てノウハウを伝授するには有効な手段だと思います。しかし、背中を見て学ぶスタイルでは、学習に極めて長い期間を要するだけではなく、師匠役の教えるスキルや教え方によって教育の結果が大きく左右されてしまうというデメリットもあります。

 つまりノウハウの伝授を、優れた職人個人に依存するほど、ノウハウ伝授のばらつきが大きくなってしまうという落とし穴です。実際に工場の幹部の方と話をすると、「自分も背中を見て学べと言われて育ってきたので、何が仕事のポイントなのかについては自分の経験則以上のことは分からない」という心情を吐露されることも珍しくはありません。

 本来、次世代人材の育成は、企業の重要課題として取り組まねばならないものです。これを、特定の個人や職場に依存してきたツケが出てきているといえるのではないでしょうか。