トヨタのマネジメントの「基礎」に気付かれた

──共通点がかなりあるのですね。というよりも、Google社が「米国のIT企業らしくない」ようにも思えます。米国のIT企業というと、ちょっと風変わりだけれども指折りの天才プログラマーが画期的なプログラムを書く一方で、MBAホルダーの経営者が収益性を追い求めて厳格なマネジメントに辣腕を振るう、というイメージがあるからです。

高木氏:ですから、そうした従来型のマネジメントスタイルからGoogle社は脱却した。そして、トヨタ自動車のマネジメントから学んだことを徹底的に行えば、企業が大きく成長するということに気付いてしまったということを、ここで説明しているのです。実は、日本企業の競争力を踏まえた場合に、「これはまずいな」と思うことにまでGoogle社に気付かれてしまい、既に実践に移されていると私は考えています。

──Google社は何に気付いたのでしょうか?

高木氏:「企業・組織文化(以下、企業文化)の構築」が競争力を高める源泉である、ということです。経営陣が戦略を立てても、戦術を実践する社員が統制的にマネジメントされるため生産性が低い。これが欧米企業の典型です。いわゆる「笛吹けど踊らず」の状態。これは自律的に動ける現場になっていないことが原因です。現場が自律的に動けなければ、生産性が高まらず、計画が遅延して、良い製品をタイムリーに造ることができません。結果、競争力が高まらない。

 実は、自律的に動ける現場にするには「共通の価値観」が必要なのです。トップがいちいち指示しなくても社員が間違わずに行動するには、みんなが同じ価値観に基づいて判断し、行動しなくてはなりません。それぞれが違う価値観を持っていると仮定してみてください。言葉1つを取っても、解釈が異なる可能性があります。

 トヨタ自動車は、共通の価値観を持つ企業文化の構築に力を入れてきました。これがマネジメントの基礎となっているのです。実は、共通の価値観を持つようにするだけで、企業の生産性は10~15%も高まります。生産性を高めるツールは数多く存在しますが、共通の価値観を持つ企業文化を築かずにそれらのツールを取り入れても生産性は大して上がりません。しかし、この点に気付いた欧米企業は、私が知る限り、これまで存在しませんでした。恐らく、Google社が初めてだと思います。なお、この共通の価値観を醸成するためのプログラムがTMSなのです。

──企業文化の構築が競争力を高める最大の鍵であることを知られたら、日本企業は欧米企業にぐんと差を付けられる可能性があるのではありませんか。

高木氏:トヨタ流マネジメントの神髄を知られてしまったのではないかと思っています。これを欧米企業に見抜かれたら、いよいよ日本企業は勝てないのではないかと危機感を抱いているのは確かです。

 とはいえ、まだGoogle社など、リーンやトヨタ流マネジメントの考え方を取り入れている一部の欧米企業しかこの点に気付いていません。加えて、トヨタ自動車には、これまでの長い期間の活動で培ってきた優れたマネジメントの仕組みが他にも存在します。「技術者塾」の講座では、そうした長い期間でトヨタ自動車が築き上げてきたマネジメントを、規模や業種が異なる他の企業が短期間で導入できる方法を伝授します。