戦略立案が大切なワケ

──IoTの導入に戦略立案や産業システムの知識が必要なのはなぜですか。

伊本氏:IoTを導入する場合、生産プロセスの一部だけを変えるのではなく、生産プロセス全体を見直す必要があります。その際に、自社の将来を見据えてどのような生産を行うかを定義しておかないと、具体的にどこをどのようにIoT化すればよいかが見えてこないからです。

 あらゆる部分をIoT化するとコストが高くなる。そのため、優先順位を付けて導入するしなければなりません。その優先順位を知るために、自分たちがどこに向かうのか戦略を立ておく必要があるのです。

 例えば、工具を造っている企業があるとします。その企業は今後、どのような製品を造るのか。他社が真似のできない工具か、特殊用途向けの工具か、はたまた通信機能を備えた工具か。その戦略を企業は考えなければなりません。単にコストを下げるだけならIoT化では限界があることでしょう。例えば、新興国に工場をシフトした方がよいかもしれません。

──IoTの導入で実現性が見えてきている使い方にはどのようなものがあるのですか。

伊本氏:よくあるのが故障予測の事例です。機械の音や振動などのデータをセンサーで収集し、そのデータを人工知能を使って分析することで機械がいつ故障するかを予測する。そして、その予測に基づいて修理に必要な部品を用意しておく。とても分かりやすい事例だと思います。

 他には、受注予測の事例があります。過去の売り上げ実績から今後どれくらいの注文が来そうかを予測するのです。従来は売り上げデータだけを見ていましたが、人工知能を使うと、そこに天気や株価指数などさまざまな情報を踏まえた上で、正確な受注を予測することができるのです。

 こうした使い方に関しては既に導入を検討する企業が出始めています。ただし、現時点ではまだ見本を示している段階で、実際の運用に耐えるところまで造り上げている企業は少ないと思います。でも、それが出来るのはそれほど遠い未来ではないでしょう。