中山聡史=A&Mコンサルト 経営コンサルタント
中山聡史=A&Mコンサルト 経営コンサルタント
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 設計者の意思を製品として具現化する図面。今、その図面の品質を落としている日本企業が多いと指摘するのが、A&Mコンサルト 経営コンサルタントの中山聡史氏だ。同氏はトヨタ自動車でエンジンのシステム設計を手掛けた経験を持ち、「技術者塾」において講座「徹底演習で学ぶ トヨタ仕込みの検図手法確立シリーズ」の講師を務める。日本企業に何が起きているのかを聞いた。(聞き手は近岡 裕)

──最近の取材で「図面の品質が下がっている」という声をしばしば耳にします。造れないとか想定外の製品が出来たといった話です。最近の日本企業の図面の品質をどうみますか。

中山氏:率直に言って、図面の品質は落ちています。20年前と比べると相当低下していると感じます。その証拠に、設計部門に対して製造部門からの問い合わせが多い日本企業が増えている。「ものを組み付けることができない」「検査のときに、なぜか性能が出ない」「システムが通信できない」といった問い合わせです。

──何が原因なのでしょうか。

中山氏:1つは、ベテランの退社です。30年といった長い期間図面を見続けてきた、いわゆる「団塊の世代」のいる職場が少なくなってきました。彼らは図面にさっと目を通すだけで、間違いや製造部門に誤解を与えそうな箇所をすぐに指摘できました。そうした貴重な人材が減っているのです。

 もう1つは、製品の機能の複雑化です。中でも、最近はハードウエア(以下、ハード)とソフトウエア(以下、ソフト)の組み合わせがうまくいかないことに悩んでいる企業が目立ちます。今、さまざまな分野でシステム化やIoT(Internet of Things)化が進んでおり、多くの企業でハードとソフトを融合させた製品を造る必要が出てきました。

 例えば、照明製品を取り上げましょう。従来は器具(ハード)単体で開発していたのに、現在は複数の器具を組み合わせ、それを制御するためのソフトを開発してシステム製品として仕上げる必要があります。ところが、うまく光らないし、想定通りに機能しないケースが増えている。ハードは従来からのメカの造り方ですが、最終的にメカの部分だけを見て検図しても、不具合が起きてしまいます。ソフトがどのような制御で動いているかを把握した上で、検図を実施していないからです。実は、ハードとソフトを組み合わせるシステム製品は検図が絡むところが非常に多いのです。

 システム製品では、ソフトとメカの整合性を検図で確認する必要があります。ソフトがどのような制御内容であるかを理解した上で、ハードをどのような構造にしなければならないかについて、検図の時点でチェックするのです。多いのが、メカ系技術者ばかりでソフトについて知っている人がいないという企業です。この場合、本来はソフト技術者が制御の内容をメカ系技術者でも分かるように明確に伝え、ハードの構造がそのソフトに適しているかどうかを検図の段階で判断しなければなりません。平たく言えば、メカ系技術者がソフト技術者に話を聞いてハードに落とし込むというわけです。その逆のプロセスも存在します。メカ系技術者がハードの構造をソフト設計者に伝え、ソフトを開発していきます。

 ただし、こうしたケースもあります。ハードで成り立ってきた企業が、組み込みソフト技術者を採用した。ところが、設計プロセスの中で、ソフト設計がどこのタイミングでどこに位置付けるべきかが分からない、と。これが分かっていないと、そもそも検図を行うことすらできません。

 要は、ソフトとハードを融合させる複雑なシステム製品が増えている一方で、検図があまり機能していないケースが増えている。それが、最近の図面品質の低下につながっているというわけです。