──トライボロジーに関するトラブルは増えているのですか?

岡本氏:調査データはないのですが、増えていると感じます。重大なトラブルとして記憶に新しいのは、あるクルマのエンジンのトラブルです。コネクティングロッド(コンロッド)のねじを適切に締め付けていなかったため、緩んでねじが外れた。そのため、コンロッドがピストン運動中にねじが吹っ飛んでエンジンが壊れてしまいました。

 ここでは名前を伏せますが、大手自動車メーカーです。ねじがらみで大きなトラブルは結構起きています。こう言うと「ねじが問題なのか」と思うかもしれませんが、適切な締め付けができていないというのは、摩擦を考えずに締め付けたということ。すなわち、摩擦が関係しているので、トライボロジーの知識が必要なのです。トライボロジーは幅広い領域に影響を与える技術であることが分かることでしょう。

 可動部が焼き付いてロックするのは、トライボロジーに関する典型的なトラブルです。例えば、エンジンであれば油膜が切れて摺動部が傷つき、その傷で生じた隙間を燃焼ガスが通り抜けてエンジンの油だまりに入る。すると、エンジンオイルが劣化、すなわち酸化して(酸性の液体となって)金属製部品を腐食させる。また、傷が発生すると圧力が下がるため、エンジン効率が落ちてしまいます。

 ギア部もトライボロジーに関するトラブルが多い箇所です。大きな荷重がかかるため、摺動部の油膜が切れやすいからです。油膜が切れると摩擦係数が大きくなり、摩擦熱が発生して焼き付いたり傷が付いたりします。するとエネルギー損失が大きくなるし、壊れる危険性もあります。

 コンプレッサーがロックして動かなくなるトラブルもよくあります。多くの場合、これもトライボロジーが原因です。ゴムと金属の間もトライボロジーが関係します。さらに、音も関係してきます。例えば、ブレーキ音。摩擦がゼロなら音はしません。摩擦があれば、必ず音がする。つまり、音の低減にもトライボロジーの習得が必要なのです。

 ゴム製オイルシールでもトライボロジーが関係します。摩擦でゴムが摩耗すると、密封性が損なわれます。従って、摩擦は小さい方がよい。もちろん、油やガスが漏れない密封性を保つ必要がある。ここにもやはり、トライボロジーの考え方が必要となります。