──設計品質基礎講座ではどのようなポイントに力点を置いて説明するのですか。

戸水氏:個々の品質管理ツール(標準ツール)を使用した教育プログラムは他にもあります。しかし、製品開発プロセスに合致した一連の製品開発の流れに沿って標準ツールの使い方を学ぶ教育プログラムは、本講座以外にないと思います。加えて、製品開発エンジニアリングを統合的に教育することは、企業でも大学でも行われてこなかったのではないでしょうか。

 一方で、品質管理手法や品質工学のパラメーター設計を実際の設計現場に適用することは、従来から試みられてきました。しかし、特別な開発品を除くと、構想設計手順としてほとんど普及していません。その大きな理由は、設計者の負担が大きすぎるからです。分析や評価をしているうちに設計納期がきてしまう恐れがあるのです。

 加えて、手法や結果の書式に個人差があることも問題です。この差があることにより、例えば上司が以前の結果や、開発プロジェクトメンバー間での検討文書などを比較できないのです。これも普及を阻む理由の1つと考えられます。

 設計品質基礎講座を受講すれば、今までのアプローチに何が不足しており、具体的にどのような標準ツールを配備すればよいかを自ずと判断できることでしょう。ポイントは、指定された手順を踏めば、誰が設計しても一定以上の設計品質を保つことができ、標準化によって誰もが情報を共有できることです。実習では、SDI社が開発した「SDI Tools」を使用します。これは全てMicrosoft Excelの上で、マクロとVB.NETでプログラミングしたものです。受講後、帰社して開発する際にも参考になると思います。

──想定する受講者はどのような方ですか。

戸水氏:近年、大学や企業で品質管理や品質工学、統計学の基礎を学ぶ機会が極めて少なくなりました。にもかかわらず、設計部に配属されるとすぐに品質機能展開(QFD :quality function deployment)やFMEA(Failure Mode and Effects Analysis:故障モード影響解析)を使うことを求められる場合があります。ある年齢以上の設計者は、先の基礎教育を学んでいるため知識がありますが、最近の新入社員は教育をされていないのが実情です。

 設計品質基礎講座は、誰もが分かるように設計品質の向上に関わるメソドロジィー(方法論)の全体像を示します。それでも、最初は少し難しいと感じる若手技術者もいるかもしれません。しかし、設計品質基礎講座を受講した方へのアンケートの結果からは、「最初は少し難しいと感じるが、実際に取り組んでみると理解が深まる」という評価を得ています。講座としては適正な目標レベルにあったことが確認されています。また、「これまでの仕様の決め方が、かなりいい加減だったことを認識した」とか「このような決め方を知っていれば問題を未然に防げたのに」といったコメントが多く寄せられています。

 さらに、若手技術者に限らず、設計者や、製品開発プロジェクトに参加する人、新商品企画を担当している人にもお薦めです。受講すれば、現状の仕組みの改善につながると思います。また、従来の設計プロセスの改革を推進している人、特に製品イノベーションを担う人材の育成を求めている人にも参考になると考えています。

──受講者はどのようなスキルを身に付けることができるのでしょうか。

戸水氏:設計品質基礎講座で示す手順に沿って学習を進めることにより、さまざまな顧客要件から真のニーズを抽出することができます。これにより、機能およびコスト面で実現可能と評価できる開発要件に落とし込む手順を知ることができます。そして、製品のパフォーマンス要件を部品要件までブレークダウンすることにより、設計仕様の構成アイテムに展開するプロセスを階層分析やQFDを使って可視化できるようになります。

 現状では、こうした作業は設計者の頭の中にあり、なぜその機能が選択されたかという理由や、思考過程が形式知化されることはありません。結果のみが製品仕様書として設計部にセンターファイルされているだけです。

 設計品質基礎講座を学べば、設計仕様の要件間に関連性を見いだした後で構造化することによって、より明確で完全な製品仕様書を作成して製造部門に提供できるようになります。加えて、実現したい機能要件の間に技術的な矛盾がある場合は、TRIZを使って解決する方法を学びます。設計候補の選択のタイミングでは、より論理的に数値で意思決定するPughやTOPSISの手法を学びます。これにより、声の大きい人の意見で結果が左右されることを防ぐことができます。

 設計候補が決まれば、想定外の故障が起きないようにFMEAを実行し、設計のリスク管理の方法を学びます。次に公差解析により、機能の許容値や寸法公差値の設定が適切であるかどうかを判断する手法を学びます。最後に、遺伝的アルゴリズムに基づく最適化シミュレーションを使い、品質とコストのトレードオフを行う設計の最適化の方法を学びます。こうして、設計品質を高めることができます。