故障のリスクを知るためにも

──どのような擦り合わせが必要なのでしょうか。

石川氏:EV用モーター駆動システムを例に挙げましょう。同システムは、モーターとセンサー、インバーター、DC/DCコンバーター、コントローラーなどで構成されます。EV用モーター駆動システムでは現在、「電費」競争、すなわち、熾烈な高効率化競争が展開されています。システム全体を見渡して損失を極限まで押さえ込んだり、コンパクトにして軽量化を図ったりすることが必要です。

 各電子回路の損失低減や小型化のための設計については、専門家であるエレクトロニクス系設計者の腕の見せ所です。例えば、新しい小型電子素子やパワー半導体デバイスを使ったりして、損失を減らしてコンパクトに仕上げていきます。パワー半導体デバイスでは今、耐熱性が高く高速に動作するシリコンカーバイド(SiC)に特に大きな注目が集まっています。

 しかし、電子回路に凝らした工夫の意味を理解し、他の構成要素と上手な連携をとってシステム全体を設計していくためには、高度な擦り合わせが必要です。そうしないと、電子回路を含めて各要素の実力(効率)は高いのに、システム全体の実力(効率)はそれほど高くないという、いわゆる「個別最適」の設計になってしまいます。これを「全体最適」に変え、全ての構成要素の実力を引き出してシステム全体の実力を高めるのは、機械系技術者の仕事。エレクトロニクス系技術者との間で共通言語を使ってコミュニケーションしながら、高度な擦り合わせを施してシステム全体を設計していく機械系技術者が必要というわけです。

 そうそう。新しいシステムでは、故障のリスクを知るためにも電子回路を含むエレクトロニクスの知識が必要です。

──どういうことでしょうか。

大朏氏:機械系システムでは、故障する前に異常音を発したり、部品などが摩耗していくにつれて徐々に動きが悪くなったりするなど、何らかの予兆があるケースが多いと思います。いわば、システム側が「アラート」を発してくれるのです。これを基に部品を交換すれば、予防保全ができました。

 ところが、電子回路を使ったシステムでは、予兆なしにポンと壊れることが多いのです。システム側からのアラートを期待できない。そのため、突然の故障を防ぐためにも、電子回路の知識が必要になるのです。