高度な「擦り合わせ」のため

──「メカトロニクス」や「エレメカ連携」という言葉が以前からありました。機械系技術者にとって電子回路を知るということが、なぜ今、改めて課題として指摘されているのでしょうか。

石川氏:電子回路を使いこなす必要性が、以前に比べて増しているからでしょう。これには2つの意味があります。1つは単純に使用量が増えていること。もう1つは、システムが高機能化していることです。

 例えば、高級車には70から100個ものモーターが搭載されています。最近では油圧パワーステアリングに替わって電動パワーステアリング(EPS)も多く見られます。またハイブリッド車(HEV)や電気自動車(EV)では電気モーターがエンジンの代わりをします。そこでは、充電器やインバーター、コントローラーが必須で、これらには電子回路が組み込まれています。

 こうしたパワートレーンの電動化以上に自動車業界で開発が進んでいるのが、先進運転支援システム(ADAS)・自動運転です。これはいわば、自動車のロボット化。すなわち、多くのコンピューターや、さまざまな種類のセンサーやカメラ、レーダー、アクチュエーターが搭載されるようになります。これらには全て電子回路が組み込まれています。

 世界の製造業に目を転じると、IoT(Internet of Things)化が加速しています。IoT化すると、多くのシステムにさまざまなセンサーや通信機器などが付くようになります。言うまでもなく、これらは電子回路とセットです。今、多くの日本企業が工場の生産ラインをIoT化した「スマート工場」の確立に力を入れています。今後は家や街もIoT化が進み、「スマートホーム」や「スマートシティー」になっていくと予想されます。この流れに伴い、ロボティクスも進化し、産業用途からサービス用途のロボットが活躍する時代になることでしょう。従って、これから電子回路の使用個数は飛躍的に増えていくはずです。

 しかし、単に電子回路の使用個数が増えるだけではありません。機械系設計者にとってより重要なことは、こうした新しいシステムが、エレクトロニクスと融合して高度にインテリジェント(知能)化したシステムとなっていくことです。技術水準が高く複雑な機能を高い品質で実現するには、システム全体の設計を行う機械系技術者がエレクトロニクス系技術者と緊密な連携をとり、高度な「擦り合わせ」を行う必要があります。このためには、両者の間で技術的な議論を行うための「共通言語」がなければなりません。すなわち、機械系技術者が電子回路について最低限の知識を身に付けなければならないのです。ところが、十分に対応できていないために、システムの設計ができないというケースが徐々に目立ってきたというわけです。