──最近、接合に関わるトラブルとして目立つのはどのようなものですか?

岡本氏:溶接による割れです。溶接後にワークの内部に残留引っ張り応力がある状態で、外部から繰り返し力(繰り返し応力)が加わると亀裂が生じる。それが徐々に広がって、最後には破断(疲労破壊)してしまうというトラブルです。これを防ぐためにアニールを施して残留引っ張り応力を取り除くのですが、この処理がきちんと行われていないときにトラブルが起きてしまいます。溶接には常にこの心配があります。

 加えて、残留応力(残留引っ張り応力と残留圧縮応力)が存在すると時間と共にひずんでいきます。先の溶接時のひずみは溶ける際のひずみですが、残留応力によっても時間が経つとひずみが生じます。

 残留圧縮応力もひずみの原因となるのですが、耐疲労性という意味では残留圧縮応力は有効に作用します。残留圧縮応力があると疲労破壊しにくいため、疲労破壊させないためにあえて残留圧縮応力を加えることもあるほどです。

 例えば、エンジン部品には数十μmの粒子を使ったショットピーニングを施します。これで「油だまり」を作って潤滑性を高めるのですが、それだけではありません。粒子をぶつけるとワークの表面は広がる一方で、内部に向かって縮まろうとする力が発生します。疲労破壊は亀裂が大きくなっていくもの。ショットピーニングを施した後のワークの表面は、この亀裂の広がりを抑える働きをします。そのため、残留圧縮応力は耐疲労性を高める1つの方法となっているのです。