「広く浅く」で構わない


社内で学ぶことはできないのでしょうか。例えば、専門として極めたベテラン技術者に教えてもらうとか…。

岡本氏:確かに、社内に個々の接合技術に関する専門家がいる場合があります。例えば、溶接の専門家や接着専門家といった人たちです。ただし、そうした専門家と呼ばれる人たちは、1つの接合技術を深掘りした人であるケースが多い。そのため、専門として極めた接合技術を詳しく教えることはできても、接合技術全体を幅広く説明できる人は少ないのです。

 これに対し、幅広く知識を持っておくと、どの専門家に相談にいったらよいかが分かります。実は、設計者は個々の接合技術を深掘りする必要はありません。誤解を恐れずに言ってしまえば「広く浅く」で構わない。使いこなせればよいのです。使いこなす上で支障のない程度の知識を持つだけで十分。逆に、深掘りするほど詳しいと、その接合技術に固執してしまう可能性があります。従って、浅くても広く知っておき、適した技術を選べる力を身に付けることが大切です。

 接合技術には、機械的な接合と冶金的な接合、化学的な接合があります。冶金的な接合には、レーザー溶接を含めた溶接技術とろう接などです。化学的な接合の代表が接着剤です。話が前後してしまいましたが、機械的な接合はねじ締結に代表され、これは別の講座「決定版!トラブルを回避する自動車部品のねじ締め」で扱うため、本講座ではそれ以外をまとめて習得するというわけです。

 技術を広く知っておくことで、複数の接合技術を組み合わせるという発想も生まれてきます。実は今、クルマのボディーでは、スポット溶接と接着剤を組み合わせる「ハイブリッド接合」が流行し始めています。自動車メーカーの狙いは、ボディー剛性の向上です。


 異なる材料をくっつける、最近話題の「異種材料接合」にも役立ちます。異種材料を接合する際に、どのような接合の仕方があるのかを知ることができる。これまでは仕方がなくねじ締結や接着剤を使っていたところを、例えば「摩擦撹拌接合という方法が使えるのではないか?」と気づけるようになるのです。

 トヨタ自動車の「レクサス」では、レーザー溶接と接着剤を併用しています。これは、ボディーの剛性を高める上で、より信頼性の高い方法です。というのは、接着剤は信頼性を確保するために、留意点が多いから。塗り方や、接着剤のロット、作業者、使用環境、表面処理の仕方などで接合力が変動するのです。つまり、溶接の方が信頼性が高い。しかも、接着剤は硬化するのに時間がかかるという課題もあります。