モノづくり経営研究所イマジン所長の日野三十四氏
モノづくり経営研究所イマジン所長の日野三十四氏
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 三菱自動車の燃費不正問題が発覚した。設計開発プロセスの革新を実現するモジュラーデザイン(MD)の第一人者である、モノづくり経営研究所イマジン所長の日野三十四氏は、かつて自動車メーカーでエンジンの排出ガス低減研究や車両型式認証受験を行った経験を持つ(一人の技術者がモジュラーデザインを確立した軌跡)。日野氏が、今回の三菱自動車の燃費不正問題について国交省への提言を行った。

 2016年4月26日、国土交通省は再発防止の作業部会を設置したとのことです。しかし、「新車発売前に実施される燃費試験の際に、メーカー側が提出する『走行抵抗値』のデータで不正が起きない検査方法について議論する」ことが目的では、事態を限定化・矮小化して決着を図ろうとしているように思えます。

 そもそも「再発防止」という発想が誤っており、必要なのは「未然防止」です。再発防止とは、問題が発生したら直接原因に対策を施して同じ問題の再発を防止する「是正措置」(Corrective action)に過ぎません。これに対し、未然防止とは問題が発生したら根本原因を探り当て、FMEA(Failure Mode and Effects Analysis:故障モード影響解析)で対策して類似の問題の発生を防止する予防措置(Preventive action)です。

 走行抵抗値(=コーストダウンタイム)はタイヤを経由しての転がり抵抗の他に車体空気抵抗(Cd)の影響を受けます。転がり抵抗の大きな要因は車両重量ですが、国交省は操縦安定性などを測定する「実走行型式認証車」(「排出ガス・燃費型式認証車」とは別の車両)を用いて車重計で車両重量を計り、風洞実験棟でCdを実測するので車両重量とCdはあまり変な値を申請できません。両認証車で内部の目的別「ブラック仕様」が異なっていたとしても、車両重量とCdはほぼ同じだからです。

 従って、走行抵抗値を小さくしようにも常識の範囲内から少し小さくする程度にしかできず、その際のJC08モード燃費の伸び代はせいぜい10%ぐらいで、目くじらを立てるほどのものではありません。また、車両重量とCdが似ている他メーカーの類似車両が申請した走行抵抗値と比較すれば、それらの群(範疇)に入っているかどうかで捏造値を申請したかどうかも推測できます。市場車の燃費を試験し、カタログ燃費と市場実力燃費との差が10%を超えていれば、走行抵抗値以外の不正も調査する必要があります。