モノづくり経営研究所イマジン所長の日野三十四氏
モノづくり経営研究所イマジン所長の日野三十四氏

 三菱自動車の燃費不正問題が発覚した。設計開発プロセスの革新を実現するモジュラーデザイン(MD)の第一人者である、モノづくり経営研究所イマジン所長の日野三十四氏は、かつて自動車メーカーでエンジンの排出ガス低減研究や車両型式認証受験を行った経験を持つ(一人の技術者がモジュラーデザインを確立した軌跡)。日野氏が、今回の三菱自動車の燃費不正問題について気になる点を語った。

 三菱自動車が軽自動車の燃費試験において不正を行ったことが今、日本の製造業に衝撃を与えています。しかし、これは氷山の一角ではないでしょうか。というのも、どの自動車メーカーであっても、似たようなことをやろうと思えばできる状態にあるからです。

 その背景にあるのは、国土交通省の甘え体質です。国交省は自動車メーカーの「上げ膳据え膳」状態に甘えており、自動車メーカーが提供するテストデータを採用したり試験装置や計器類を借用したりしています。運転に関しても自動車メーカーのテストドライバーに依存する始末です。そのため、自動車メーカーがその気になれば、認証試験を自在に制御することが可能です。

三菱自動車の「eKワゴン」
三菱自動車の「eKワゴン」
[画像のクリックで拡大表示]

 今回の三菱自動車の事件を受けて、国交省は「型式認定審査は自動車メーカーとの信頼関係で成り立っているのに、裏切られた」と語っていました。しかし、本来は「審査」と「性善説」は論理的に成り立たないという根本的な部分で国交省は認識を誤っています。だから第一に、「国交省はメーカー依存審査をやめるべき」です。事実、米国環境保護庁(EPA)は全て自前で試験を実施します。以下、徹底的に「性悪説」に立った論評を行います。

 自動車メーカーは、いろいろな操作を行うことが可能です。例えば、型式認証車に特別な低燃費タイヤをはかせれば、グリップ力や操安性を無視して燃費だけを高めることが可能です。他にも、低抵抗ワックスでクルマをピカピカに磨いて空気抵抗を減らしたり、特別な低抵抗車体を仕上げたりして、コーストダウンタイム〔惰行走行時間:走行抵抗(転がり抵抗+空気抵抗)を測定する方法〕を引き延ばして台上試験時に車両にかけるダイナモ負荷を軽くすることもできるのです。特別な低燃費仕様のエンジンを搭載したり、自動車全体の抵抗部位の抵抗係数を減らしたりすることも、やろうと思えばできるのです。もちろん、こうした仕様では市場での耐久性が保証できず、売り物にはなりません。