こうした特別調整を施したクルマを使った認証試験を国交省が許せば、当然「スペシャルな燃費」を承認してしまうことになります。ところが、国交省はこうした「ブラック仕様」を見抜くことはほとんど不可能です。従って、国交省は、型式認証試験は人命に直結する安全関係だけにとどめ、排出ガスと燃費の認証試験は書類審査で通してしまい、その余力を市場車の調査に振り向けた方がよいでしょう。こうして、国交省は定期的に各メーカーの市場のクルマを無作為に引き抜いて排出ガスと燃費を測定し、カタログ値に対して10%以上の乖離があるクルマを発売した自動車メーカーに立ち入り検査を実施などの行動をとるべきです。立ち入り検査をすれば不正の痕跡は必ず見つかります。

 しかし、ドイツVolkswagen(VW)社の排出ガス不正問題で明らかになった通り、台上試験と路上走行で異なる働きをする装置(ディフィートデバイス)を装着されると市場調査試験も無効となってしまいます。さらに、路上で試験した結果で不正を暴くことも難しい。規制値と実測値との間によほど大きな差が出ない限り、「路上での走行試験方法が特殊だ」などと、自動車メーカーにのらりくらりとかわされてしまうからです。規制値からの乖離があれほど大きかったVW社のケースでも、同社に白状させるまで3年もかかったのです。

 従って、ディフィートデバイスに対しては、台上と路上の走行状態を一致させる工夫を施すことが必要です。一致させることは技術的に可能です。昔、ある海外の自動車メーカーがラジオのスイッチを入れると排出ガス浄化装置を停止するディフィートデバイスを装着していたことがありました。そのため、自動車に装着されたエアコンを含むあらゆる装置を一度は必ずONにして試験することも必要でしょう。台上試験時の室内温度は25±5℃であり、その温度を外れた場合は装置をカットすることが自動車の耐久性保証のために認められています。しかし、「排出ガス浄化装置は認証試験条件を外れてカットしてはならない(漸減することは認める)」という規則を設けることが必要です。

 以上のような方法を採用するとともに、国交省は「モデルチェンジの際は、必ず燃費を同等以上にすること」*1といった行政指導通達を緩和することも必要です。これまで「下駄(げた)ばき」*2をしてきた自動車メーカーが、下駄を脱ぎにくくなってさらに不正を考えることを防止する措置です。ゆくゆくは個別モデルの燃費改善指導ではなく、EPAと同じように自動車メーカーの加重平均燃費に対して改善指導をすべきです。このようにすれば「カタログ燃費に対して実燃費が20~30%悪い」という“常識”が次第に解消に向かうのではないかと思います。

*1 これは昔の話であり、現存するかは不明です。
*2 「下駄ばき」とは1970年代に運輸省と自動車メーカーの共通の隠語でした。