即断即決

──でも、協力企業がいて、協力しながら造っている日本企業は多いと思いますが…。

國井氏:外注先には言えるけれど…、あるいは日本語なら言えるけれど…というケースが多いのではありませんか? 海外企業に対しては単に会話をするのではなく、設計に関する必要事項をきっちりと「主張」できなければならないのです。外国の一流企業のマネージャーを前にしてきちんと主張できますか、彼らを説得できますか?

──海外企業の設計マネージャーのコミュニケーション能力は高いということですね。では、このコミュニケーション能力以外に、一流と称される海外企業の設計マネージャーが優れている点はありますか?

國井氏:これはもう、リーダーシップでしょう。私は韓国メーカーも指導していますが、設計部門に限らずSamsung Electronics社(以下、Samsung社)のマネージャーは即断即決。真のリーダーとは、正しい決断を素早くできる人のことです。残念なことに、日本企業にはリーダーシップを発揮できる管理者が少ない。即断即決ができないから、合議制の名の下に会議を開きます。それでもなかなか決まらない。真のリーダーが不在なのです。

 これは、過去の安定した経営の賜(たまもの)と言えるかもしれません。政治の世界では、往々にして強いリーダーは政情が不安定な国から誕生します。強いリーダーシップを執れる社長も、経営が不安定になった会社から多く出てきます。好例は、倒産寸前まで追い込まれた日産自動車を救った、同社社長兼最高経営責任者のカルロス・ゴーン氏でしょう。反対に、経営が安定した企業からは強いリーダーは生まれにくいと言えるかもしれません。

 設計に話を戻すと、Samsung社には「イエス」か「ノー」かを言える設計部長がいます。もちろん権限委譲が進んでいるのですが、それ以前にリーダーシップのない人は部長にはなれません。同社は、年俸制と業務指名制を導入しています。役員会で部長を指名するのですが、ここでイエスかノーかを言える人材を選んでいるのです。ただし、成果を出さなければすぐに部長の座から引きずり下ろされます。

 メーカーの設計力の差は、設計部長クラスにあります。設計部長クラスがどこまで判断力を備えているかで設計力が決まると言っても過言ではありません。

 最悪なのは、いわゆる「ヒラメ」部長。上ばかりを見て役員や社長の顔色をうかがってはお世辞ばかり言っているような人です。自分の出世しか考えていない部長など論外です。

 日本企業で最近気になるのは、部長に昇格する際に重視される評価です。昔は、部下を育ててその実績が評価されて部長になる人が多かった。ところが、最近は成果主義を導入しているため、個人で実績を上げれば部長に昇格できる。自分の成績さえよければ、その「ご褒美」として、部下を育てなくても部長に出世できるという状況になってしまっています。その一方で、年功序列制の名残なのか繰り上げ当選的、あるいはスライド式に部長を選ぶケースも依然として日本企業に見られます。

 しかし、人を育てるには個人で実績を上げることに比べて2倍、3倍、いや10倍もの力量が必要です。こうした力量を持つ部長であれば、即断即決をできる力もあることでしょう。逆に言えば、日本企業は決断力を持つ人を育成できなくなっているのです。社長のお気に入りであり、「イエスマン」の部長が多いんですよ。

 設計者としては優秀だし、自信も実績もある。ただし、人を教えられるほどの力量を身に付けているかどうかは自信がないな…。そうした悩みを持つ設計管理者に、「技術者塾」の講座(「國井設計塾 世界で戦える設計マネージャー養成講座」)では応えたいと思っています。