不十分な「分業化への対応」

──日本企業の設計力が高くない理由として、他にも考えられる原因はありますか。

國井氏:設計の分業化への対応が苦手である、ということが考えられます。従来は1社で完遂していた設計が、最近は複数の企業で協力して行うように変化しています。例えば、照明器具。従来の白熱電球や蛍光灯の時代は、ガラスを含めて全てを1社で造っていました。ところが、現在のLED照明では、発光部とレンズ部、回路基板、放熱部などを各企業で分担し、それらを1社が集約して造っています。ところが、こうした分担作業のコントロールを苦手としている日本企業の技術者が多いのです。

 ここで逆説的になりますが、興味深い話があります。シャープのテレビの話です。同社はブラウン管を内製することができず、他社から調達してテレビを造っていました。同社の社長を務めた町田勝彦氏は、社長だった当時に次のような話を語っています。「当社はブラウン管テレビを販売していたが、どこの店に行っても『ブラウン管はどこ製か(どの会社で造っているのか)?』と聞かれた。そこで、例えばA社ですなどと他社の名前を挙げると、『それならA社のテレビでいいじゃないか』と返されて悔しい思いをした」と。

 ところが、そのシャープに転機が訪れる。液晶テレビの時代がやってきたからです。液晶パネルは、偏光フィルターや、ガラス基板、透明電極、配向膜、液晶、スペーサー、カラーフィルター、バックライトなど、複数の部品で構成されていて1社で内製できるものではありません。実際、ほとんどの液晶メーカーが設計を分業している。ここで、シャープはブラウン管テレビの経験により、図らずも複数社に分業して管理する能力に長けていました。液晶テレビでシャープが一時代を築けた背景には、こうした管理能力の高さがあったのです。

 日本企業は「自前主義」を掲げて、できる限り1社で全てを設計しようとする気持ちが強い傾向があります。しかし、1社で何から何まで設計するのは技術的に難しいし、また世界的に時代遅れでもある。世界を見渡すと、欧米企業や中国企業、台湾企業は日本企業よりも遙かに設計の分業化への対応が巧みだと言えます。

 差は、コミュニケーション能力にあります。設計の分業化には、高いコミュニケーション能力が必要です。国内企業だけではなく、海外企業とも上手くコミュニケートして、品質やコスト、納期といった条件を整えて製品を造っていかなければならないからです。しかし、最近の日本企業の設計者には、他社とのコミュニケーションを苦手としている人が増えているのです。