戦後、日本の製造業は品質を重視する経営を推進し、高いグローバル競争力を実現して飛躍してきた。こうした日本の品質関連の取り組みを支えてきたのが「デミング賞」で知られる日本科学技術連盟(以下、日科技連)だ。日科技連では、全国の企業・組織が“クオリティ”に関する事例を発表する「クオリティフォーラム2017(品質経営総合大会)」(2017年11月14日~15日)を開催する。日経テクノロジーオンラインは、同フォーラムの開催に先立ち、登壇者のインタビュー記事を連載する。今回は慶應義塾大学理工学部管理工学科教授の山田秀氏のインタビューをお届けする。(聞き手は伊藤公一=ジャーナリスト)
――デミング賞実施賞委員会の委員(審査員)の立場から、昨今のTQMに対する企業の取り組み姿勢をどのようにみますか。
山田:最終的な到達点としてデミング賞に狙いを定めた活動という意味合いでTQMに取り組んでいる企業、という見方をすると、残念ながら数は増えていません。一方で、TQMという言葉を使わなくても「顧客志向」に照準を合わせた取り組みを重視している企業はあります。デミング賞やTQMなどという用語の枠組みにこだわらなければ、多かれ少なかれ顧客志向は企業マインドとして根付いていると思います。
厳しい経営環境の中で、なんらかの価値を顧客に提供する。そういう姿勢を保たないで成功する企業はありません。その意味では、名称はどうあれ、かつてに比べて顧客志向は確実に、そしてかなり広まっているのではないでしょうか。お客様に価値を提供することが企業の生き残る道だという風潮は以前よりも徐々に広がっていると思います。
――デミング賞に取り組む企業が増えていない一方で顧客志向を重視する風潮は広がっている。こうした流れをどう捉えますか。
山田:TQMと経営との関係を考える時、活動の目的はあくまでも経営であり、TQMは手段にしか過ぎません。私は大学に所属するという立場から、ある企業にフィットするけれども、他の企業にフィットしない、あるいは多くの企業にフィットするというところを見極めなくてはならないと考えています。ただ、ある程度の成果を挙げている企業は例外なく顧客志向を打ち出している。それは確かです。