三浦 今は音楽イベントをやっている程度です。ただ、世の中には「歴史のある宮造りの銭湯」の保存活動をしている建築家がいたり、東京大学のイノベーション教育でも銭湯をテーマにしている人がいたりします。いずれの活動も最終的に銭湯経営者の高齢化や、後継者問題による事業継承という課題にぶち当たるんです。
実は昨年の夏には、フィンランドのアールト大学の研究者から「日本の銭湯について、インタビューさせてほしい」という話が僕のところにありました。
瀬川 フィンランド? どこで知ったんだ。
三浦 フィンランドに留学していている僕の友人の伝手でした。フィンランドにも「パブリック・サウナ」があるらしいんですけど、日本と同じように機能を家が持つようになって衰退していました。でも、それが今、再び増えているというんです。
背景には、日本と同じように都市化によるコミュニティーの分断をつなぎ直そう揺り戻しの動きがあります。若者がパブリック・サウナをアート活動に使ったりして、結構人が集まるようになっているそうです。「日本でも同じことが起きている」と耳にして、僕のところに話を聞きにきたというわけです。
その研究者も同じことを言っていました。銭湯もサウナも生活の動線上にあって、裸に近いフラットな状態で利用する場所です。日常にはそういう場所がなくなってきているから、コミュニティーとしてうまく機能させることが大切なんだと。
編集F そういえば、先日インタビューした介護事業者では、入浴だけのデイケア施設をつくったと言っていました。介護保険は使えるけど、まだ歩いて生活できる程度に元気な高齢者が、入浴だけしてみんなと話して帰っていく。その施設では介護保険が使えるので、介護事業者にとっても収入を確保できるという話を聞きました。銭湯をベースにそういうこともできそうですね。
三浦 いいですね。銭湯については、最近発見したことがあります。人々の記憶に残りやすいんですよ。
例えば、スウィングジャズの活動で「リンディーホップ」というダンスのイベントをやっているんですが、その言葉は誰も知らないから、どんなに話してもなかなか記憶に残らない。「越境リーダーシップ」という言葉も、まだ知らない人が多いですから記憶に残りにくい。
でもね、僕の銭湯の活動についてはみんな覚えていて、僕は「銭湯の人」「銭湯の仕掛人」という認識になっているんです。先日、タイに出張した時に知人と会ったんですけど、「三浦さん、タイには銭湯がないのに何で来たんですか」って…。
瀬川 銭湯にしか行っていない人に見られているわけね(笑)。越境リーダーシップのウェブサイトには、銭湯の話は載せていない?