米国で私が住んでいるマサチューセッツ州のHaverhillという町は、人口7万人足らずの市ですが、米国では中堅規模の位置付けになると思います。人口の規模で見れば、マサチューセッツ州の中で、5、6番目の大きさです。言い換えれば、大部分の町は人口の規模で数千にも届かないのですが、それでも市政と称しています。

 それだけ人口が希薄なわけで、“普通の生活”を営むには自家用車は必需品です。しかしながら、人口の何%かは車の運転ができないか、車を持つことができない人々がいるわけで、そのような人たちのために公共交通機関が整備されています。

 Haverhill市の場合、近隣の市をいくつかまたがってカバーするバスのサービスがあります。市内には10本ほどの路線があり、昼間はそれぞれ1、2時間の間隔で運営されています。

 路線内は均一料金で、1ドル30セントです。62歳以上の市民は半額になります。バス停のようなものは無く、路線の道端に立っていて手を上げて合図をすれば、止まってくれます。降りるときは、運転手さんに、降りたい場所を告げておけば、そこで止まってくれます。

 実は、私はHaverhill市に15年以上も住んでいて、この公共バスを使う機会がありませんでした(大部分の市民は一生使うことがないでしょう)。ところが、最近ひょんなことから乗り合わせることになりました。

 あるクリニックで特殊ながん検診を受けることになったのですが、自分で車を運転してきてはいけないというのです。幸い、私の自宅からバス路線までは徒歩で2、3分の距離なので、この路線バスを使うことにしました。

 さて、拙宅の近くで首尾よくバスを捕まえることができ、大人の半額の65セントを支払って、席に着きました。支払いに際して、年齢を確認できるIDを見せろ、などと野暮なことは言われませんでした。

 私の外見は、立派な老人なのです。あらかじめ乗っていた客は7、8人でしょうか、やはり年配者が多いようです。いくらも走らないうちに、大きな病院の正面入り口に止まりました。

車椅子用の自動昇降装置
車椅子用の自動昇降装置

 私は気が付かなかったのですが、入り口には電動車椅子に乗った、中年の女性が待っていたのです。運転手さんが一言アナウンスすると、他の客は一斉に立ち上がり、後部座席に移動してスペースを空けます。

 一方で運転手さんは自動昇降機を開いて、車椅子を待ちます。車椅子の女性は、慣れた様子で決められたスペースへ移動し、備え付けの装置を使って車椅子を固定します。運転手さんはそばまで来て確認し、昇降機を収納して、発車オーライです。

 この間、わずか2、3分のことでした。関わった人々全てが、当たり前のことのように整然と行動したことに感動しました。やがて、バスがダウンタウンに近づくと、ある養護施設の前で停車し、車椅子の女性は、自動昇降機を介して何事もなかったかのように降りて行きました。