よく、手離れを良くしたいと言う。商品やサービスを提供した後、いつまでも客と関わっていては、それだけ手間が掛かって効率が悪い。だから、売ってしまったらそれでおしまいにしないともうからないと言うのである。

 しかし、本当にそうなのだろうか。確かに、次から次に客が現れ、同じ商品が飛ぶように売れればそれでいいのだろうが、今どきそんな商品があるはずもないし、第一、客にしてみれば誰もが持っている商品などに興味はない。客の本音は、自分だけのものが欲しいので、右も左も同じ商品なんて嫌なのだ。

 そんな時代に、なるほどと唸るような営業マンに出会った。特殊建材を得意とするメーカーの営業マンだが、こちらの厄介な要求にうれしそうに対応してくれたのである。

 こちらの要求は、建材の寿命を延ばす劣化防止剤を開発してほしいというものだ。あちこちに問い合わせたものの、かなりハードルが高いので、それこそ、そんな課題をいちいち引き受けていては効率が悪いと、断わられるばかりだったのだ。

 なのに、この営業マンは違った。普通の営業なら在庫のある商品を勧めてくるのだが、誰もやらないなら是非うちにやらせてほしいと超積極的なのだ。何なら、上司に内緒でも開発したいと、そこまで言うのである。

 この営業マンは、これからのニーズを見抜いたのである。今まで、誰も深く考えなかった、建材そのものの劣化を防げば、その周辺に使っている構造材の劣化も止めることができるし、補修時期も大幅に伸びる、それを見抜いたのである。