診療データに病院外からアクセス

 保健福祉部が健康保険を管理する国民健康保険公団とともに2017年7月に開始するのは、医師が病院外で診療をしても、病院にいるのと変わらず患者の診療データを管理できる遠隔医療の実証実験である。

 実証の対象となるのは、全国の大型老人介護施設680カ所。大型老人介護施設とは、70人以上が入居し、常勤の看護師もいる施設を指す。ただし680カ所全ての施設が参加するわけではなく、参加を申し込んだのは2016年末時点で150カ所。複数の韓国メディアによれば、この数は当初の見込みよりもかなり少ないという。背景には医師会が「安全性と有効性を担保できない」と遠隔医療に猛反対していることがあるようで、介護施設側も参加をためらったもようだ。

 実証実験の具体的な内容は、次の通りである。介護施設にいる高齢者が病院に行くのではなく、医師が介護施設に来て診療を行う。その際、介護施設から病院のデータベースにアクセスし、高齢者の過去の診療記録を見ながら診察する。患者の記録をその場で閲覧および保存し、その場で処方箋も発行できる。往診にきた医師に、病院の診察室にいるのと変わらない情報環境を提供する形だ。

 韓国の介護施設は一般に、どの施設も近くの総合病院と契約し、嘱託医を指定している。ところが、介護施設に入所している高齢者は、1人では身動きできない場合がほとんど。嘱託医がいる近くの病院に行くだけでも、何人もの介護士が同行する必要がある。医師が往診に来る場合でも、診療記録は病院外に持ち出せないので、医師の記憶と手書きの診察メモに頼っていた。

 実証実験では、病院に保存してある患者の電子カルテを医師が介護施設のパソコン端末から見て、追加で書き込んだり、各種検査記録を閲覧したりできる。慢性疾患患者の再診を対象とするため、処方箋をもらうためだけに病院に行かなくて済むメリットもある。サイバーセキュリティーや情報保護、ネットワークの通信速度も重視し、参加施設と大型病院の間にはVPN(Virtual Private Network)を構築する。

 国民健康保険公団は、この実証実験に参加する施設側の負担を減らすサポートをする。遠隔医療に必要な機材と生体情報測定器などを公団が一括購入し、施設には定価の10%を保証金として預かった上でこれらの機材を貸し出す。予算がない施設には無償での貸し出しもする。

 同じく2017年7月からは、離島の保健所20カ所、軍部隊63カ所、遠洋船舶20隻にも遠隔医療システムを導入し、実証実験を行う。保健所や軍部隊、遠洋船舶を対象とする実証実験は既に2014年から始まっているが、今回は対象施設を例年の2倍以上に増やした(関連記事3)。

 韓国では、遠隔医療を認める医療法改定案は2016年の国会では認められなかった。だが保健福祉部は「世界に後れをとっている」として、医師会の反対を押し切り遠隔医療を始める立場を表明した形だ。