「日経メディカル」記者の眼 2016年1月20日付の記事より

 昨年、日経メディカルでは、「目からウロコのエコー活用術」という特集企画を組んだ。超音波診断装置(エコー)の軽量・小型化が進み、携帯型エコーを聴診器のように持ち歩く医師が増えていることを踏まえ、その活用法などを紹介した記事だ。

 実は今、看護の世界でも、エコーを積極的に活用しようという動きがある。患者の体内の状態を画像により可視化し、安全・確実な看護ケアにつなげる試みだ。画像をケアに応用する研究の第一人者である大阪医科大学看護学部准教授の松尾淳子氏は、「個々の看護師の勘や経験でなく、画像で客観的に評価することで、一つひとつの行為を根拠に基づき実施できるようになる」とその意義を説明する。

携帯型エコーで膀胱容量を測定する大阪医科大学の松尾淳子氏
携帯型エコーで膀胱容量を測定する大阪医科大学の松尾淳子氏
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 画像診断装置の中でもエコーは、ベッドサイドで簡便に行える上、患者への侵襲も少ないことから、看護師が取り入れやすい。(1)褥瘡ケアにおいて肉眼では判別が難しい皮下組織の損傷の程度を評価する、(2)排便・排尿コントロールのために腸や膀胱の状態を確認する、(3)嚥下機能を評価し食事の形態を工夫する──といった活用法がある(写真)。いずれも、高齢社会において欠かせないケアだ。

 松尾氏は、看護学部の授業にもエコーを用いている。例えば、静脈穿刺の技術を学ぶ講義では、血管の太さや皮膚からの深度などをエコー画像で確認し、穿刺時の針の角度や長さなどのイメージをつかむ。血管の走行が画像として頭にインプットされることで、その後の採血実習もスムーズに行えるようになるという。

 「画像を見ると理解が深まり、授業中の学生の表情も生き生きしてくる。『ケアの前に画像で確認してみよう』という思考を持った看護師が、1人でも多く育ってほしい」と松尾氏は期待を込める。

ナース向けのエコー機器を開発

 松尾氏はかつて看護師として勤務していた福井県内の公立病院で、褥瘡対策チームの委員長を務め、院内の褥瘡ケアを一手に担っていた。現場で後進の育成に当たる中で、看護ケアの根拠を探究し、患者に還元できる新たなケア技術を創り出したいとの思いに駆られ、大学院に進学。その後、東京大学の真田弘美教授・金沢大学の須釜淳子教授の下で褥瘡予防のマットレスや体圧分散に関する研究に従事していた時に、褥瘡の経過を評価するツールとしてエコーと出会い、その有用性を実感したという。

 現場の看護師にとってエコーは、「医師や臨床検査技師が使う機器」とのイメージが強く、敬遠されがち。だが松尾氏は、「五感を駆使したフィジカルアセスメントに、画像による評価を加えることで、自信を持って処置が行えるようになる。患者さんと画像を共有することで、ケアに対する理解も深まる」とメリットを語る。機器の性能が向上し、以前に比べて血管や皮下といった表在領域の描出が容易になったことも、看護師がエコーを扱う上で追い風となっている。