Apple社は愚直に実践しているだけ

――北山さんが会計視点で設計を見ることの重要性に気付いたきっかけは何だったのですか。

北山 京セラ創業者の稲盛(和夫)さんが、会計視点で設計を見ていたのです。直接学んだわけでありませんが、稲盛さんの著書の『稲盛和夫の実学 ―経営と会計―』(日本経済新聞社、2000年)に、「固定費を増やしてはならない。たとえ変動費が下がったとしても、固定費が増えるようなマネジメントはあり得ない」という内容が書かれていたのです。

 固定費マネジメントの重要性は、よくよく考えてみれば当然のことですが、言われるまではなかなか気付かないものです。いわば、手品の種明かしのようなものです。聞いてからは簡単なことに思えますが、聞くまではその発想ができない。Apple社の固定費マネジメントについても、そんなに難しい話ではありません。「生産設備を使い倒しましょう」「生産設備の稼働率を上げましょう」といった昔からいわれていることを、Apple社は愚直に実践しているだけなのです。

――確かに会計の専門家は設計を見ないかもしれませんが、技術者はコストを見ていますよね。それは、会計の視点ではないのですか。

北山 違うと思います。もちろん、設計者はコストを見ていますが、それは主に部品や材料といった変動費です。固定費がどのような計算方法で処理されていて、どのように配賦されているのか分からないので、固定費を使っているという認識そのものが抜けているのではないでしょうか。

――コスト、すなわち変動費であると。

北山 そうです。それは技術者だけではなく、経営者もそうなのです。みんな、変動費しか見ていません。