「要は“バーチャルApple”を作るってことですよね?」。日経テクノロジーオンラインが共催する「super sensing forum」を、ある方に説明したときに言われた言葉です。この短い言葉が我々の構想の本質を捉えていると感じたので、記事のタイトルに使わせていただきました。

 米Apple社は、ヒトの暮らしやヒトとデジタル機器とのかかわり、世界中の先端技術を徹底的に研究し、それらを自社の製品・サービスのデザインに生かしているといいます。ここでいうデザインとは単なる造形や色だけでなく、設計やシステム、ビジネスシナリオまでをも包含したものです。Apple社は、自分たちが求めるデザインを実現するために必要な技術が市場にあればそれを調達しますが、世の中になければ自ら開発することも厭いません。(その時点における)最高のユーザー体験を提供することを目指しているからです。

 一方、日本の電機メーカーの、特にコンシューマー製品からは、Apple社のようなこだわりやデザイン思考は感じられません。コンシューマー分野の“現王者”であるスマートフォンから、もはや日本発の製品がほとんど消え去ったのも、このことと無縁ではないでしょう。パソコンそしてテレビでも同様の状況といえます。

 筆者は日本人として、この状況に非常な危機感を持っています。国内電機メーカーの動きを見ていると、B2Bに軸足を移し、コンシューマー製品に対しては部品や素材の供給者に徹するという姿勢が見えます。ビジネス上、安定方向に舵を切るのは理解できますが、結局、一番大変で、最も大事なトレンド作りを人頼みにしているように見えます。

 もちろん、トレンドは作らなくても、他者が作り出した時代の変化を素早く読み、供給先を変えていくという方法もあるでしょう。品質や技術力において、日本メーカーが圧倒していた20~30年前であれば、この手法は賢い選択だったでしょう。しかし、韓国、台湾、中国などのメーカーとの差がどんどんと埋まってきている今、近い将来限界に達するように思えます。品質や技術力同じになれば、残るのはコスト競争だけです。とはいえ、一度、部品供給者の立場になってしまうと、最終製品やサービスを橋頭堡にした新しいビジネスが作れないため、いつまでたっても部品供給者という立場から脱せられません。