ここまでできたら、サービス事業者の方に会いに行き、「素人なりに、御社ではこのようにメモリー・ストレージを使っていると考えましたが、間違っていませんか」と感触を探る。これくらいやらないと、サービス事業者さんは手の内を明かしてくれません。

 このように様々な業界に「なり切る」のは、単一の専門ばかりやってきたエンジニアにはかなり厳しい。むしろ多様な経験こそが武器になるのではないでしょうか。例えば、医療に詳しいITエンジニアの方に「なぜ畑違いの医療分野に詳しいのですか?」と聞いてみると、大学ではバイオを学んだ後に電機メーカーに就職してITの研究開発を始めた、ということもありました。受験勉強や大学の1,2年で真剣に生物を勉強した経験があるだけでも、ずいぶん違うと思います。

 あるいは、大企業よりも比較的小さな企業のエンジニアが優位に立つことも多い。大企業では、特に主力事業ともなると、エンジニアの数も多く、仕事が専門別に細分化されがちです。そうすると狭い分野に集中する形になるので、一芸に秀でることはできても、多様な経験をすることは難しくなります。一方、小さい企業ではエンジニアも様々な分野をカバーしなければいけなくなるので、結果として多様な経験を積むことができる。

 エンジニアと言えば、専門を極めること、一芸に秀でることが良しとされてきたと思います。今でもそうかもしれませんね。IoTの時代ではそれが多様性の欠如、として弱みにさえなりかねない。今まで強みだったものが弱みに、弱みが強みに、価値の逆転が起こりかねないのです。

 もちろん、専門を極めなくて良いわけではありません。正しくは、一つの専門を極めただけでは不十分、という時代になったのだと思います。大変な時代ではありますが、色々なことをやることがプラスに働くようになった、と前向きに考えたいと思います。

 IoTの時代では様々な経験をすることから価値が生まれてくる。ルネサンスの時代では、レオナルド・ダ・ヴィンチやミケランジェロやラファエロたちが「万能の天才」と呼ばれたように、絵画だけでなく建築や医学、自然科学にも秀でていたと言われています。彼らと比べても仕方ありませんが、あれだけ色々なことに手を出せたら、さぞかし楽しかっただろうな、と想像してしまいます。IoTの時代に生きる私たちも、様々な経験を楽しんでいきたいと思います。