もっとも、いきなり全然違う分野に参入しても、研究で成果をあげることは難しい。元の専門を強みとして活かしながら、すこしずつ分野を変えていくしかない。そのためには準備も助走期間も必要です。例えば私の研究室では、最近、自動運転車を目的とした高速なビッグデータ処理の研究を始めました。半導体の強みを活かしながら、自動運転という日本がまだ強みを発揮できる分野への転換です。

 こうした社会実装に近い研究になると、カバーしなければいけない技術の分野も広範になりますし、ビジネスモデルやプライバシー、法制度など、純粋な技術以外の要因も重要になります。まさにMOT(技術経営)が必要になるのです。研究をしながら、MOTについても学生たちと考えていきたいと思っています。

 もちろん、トランジスタの微細化や大容量のメモリーなどの半導体デバイスそのものも扱うわけですが、半導体そのものが目的になることは、残念ながら、日本の産業構造を考えると日本の大学では難しいと思っています。

 社会や産業構造の変化が個人の力としてはどうしようもないのであれば、場所を変えるか、分野を変えるしかない。場所を変える、特に海外の企業に移る場合は、家族のこと、特に子供の教育も考えておく必要があるでしょう。また、分野を変える場合は、それなりに事前に準備をしていなければ、急には難しい。いきなり新規の分野に移っても、競争力がないわけですから。

 電機メーカーに居た私たちの世代(40代)は突然、会社の都合で進路変更の決断を迫られた人が多いのですが、どのような産業にいても、どの世代でも同じようなことが起こることを覚悟しておくべきでしょう。就職したばかりの人はまずは仕事ができるようになることが必要でしょうが、実は入社した瞬間から次のステップへの準備が始まっているのです。