需要家向けに蓄電池を発売

図1 AGLが家庭顧客向けに発売した7.2kWhリチウムイオン蓄電池
図1 AGLが家庭顧客向けに発売した7.2kWhリチウムイオン蓄電池
(出所:AGL)
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 電力小売事業者として世界で初めて蓄電池の販売に乗り出したのは、オーストラリアの大手小売事業者のAGLである。同社は2015年5月に、インバーター、制御システム、太陽光パネルとの接続機器を含めたシステム価格を1万オーストラリアドル(約87万円)以下に設定して発売した(図1)。容量は7.2kWhである。この価格は、これまでのリチウムイオン蓄電池システムの3分の1から2分の1程度に相当する。

 この蓄電池は3k~4kWの太陽光パネルとの併用を想定している。需要家は太陽光パネルが発電した電力を蓄電池に貯め、それを自家消費することでエネルギーコストを削減できる。

 需要家はAGLと太陽光・蓄電池併設に関して長期のサービス契約を結ぶ。AGLは蓄電池管理システムや蓄電池監視システムを導入して、需要家のシステムをモニタリングして適宜運用する。AGLは今回、台湾AU Optronics製のリチウムイオン蓄電池を採用したが、まだ価格が高いとしており、本格普及は価格低下が期待できる2020年からと見ている。

図2 Genesis Energyが発売を検討している米Enpaseの蓄電システム
図2 Genesis Energyが発売を検討している米Enpaseの蓄電システム
(出所:Enphase)
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 ニュージーランドの最大手小売事業者のGenesis Energyも2016年第2四半期から蓄電池システムの提供を始める予定。米国のエネルギー機器メーカーであるEnphaseと提携して検討を進めている。Enphaseのシステムは、リチウムイオン蓄電池と小型インバーターからなり、家庭向けにプラグ・アンド・プレイで簡単に設置できるとしている(図2)。

 Genesis Energyが蓄電池の発売に踏み切る背景はこうだ。同社が販売エリアとするニュージーランド北島のさらに北部は、水力発電などの電源が豊富な南島から遠いため、送電線の託送料がかさんで高い小売料金になっている。例えば、オークランドの北に位置するWhangarei市では30セント/kWhと高く、消費者にとっては太陽光発電を設置して自家消費した方が経済的にメリットの出るケースが出てきている。さらに、太陽光発電を有効利用するために、蓄電池のニーズが顕在化してきた。

 一方、電気自動車(EV)メーカーの米Tesla Motorsは、2015年4月に家庭用の蓄電池「Tesla Powerwall」を発売すると発表している。容量7kWhの蓄電池を3000米ドル(約36万円)、10kWhの蓄電池を3500米ドル(42万円)に価格設定した。Teslaの製品にはインバーターなどの付属部品が含まれていないが、インバーターを含めたシステム価格は70万~80万円程度と、AGLの製品と近い価格になる。今後、「Tesla Powerwall」を採用して、家庭向けに蓄電池を販売する電力小売事業者が出てくると見られる。

 このほか、韓国のリチウムイオン電池メーカーも家庭向けに低コストの製品を発売することが予想されており、向こう数年は家庭向け蓄電池の発売が相次ぐだろう。