「エネルギー版グラミン銀行」で電化推進

 この分野で最も先駆的な事例は、バングラデシュの「グラミン・シャクティ(Grameen Shakti)」だろう。グラミン・シャクティは、ユニークなマイクロファイナンス手法により貧困層の経済的な自立を支援することで一躍脚光を浴びたグラミン銀行によるエネルギーへの取り組み。いわば「エネルギー版のグラミン銀行」である。

 グラミン・シャクティでは、太陽光発電パネルと蓄電池をセットにして、夜間や雨天時でもランプによる照明や携帯電話の充電などが行えるようにした(図3)。支払いパターンを4種類設定し、最長42カ月をかけて設備の費用を支払うことが可能となっている。

図3 グラミン・シャクティによって設置された太陽光発電設備
図3 グラミン・シャクティによって設置された太陽光発電設備
(出典: グラミン・シャクティ)

 これにより、電力網インフラがない地域の低所得層でも、その多くが電気を使うことができるようになった。グラミン・シャクティ公式サイトのデータによると、2014年までに150万世帯以上が同サービスによって太陽光発電設備を導入し、電気が使えることが分かる(図4)。2016年までに200万世帯への導入を目指している。

図4 グラミン・シャクティによる太陽光発電設備導入世帯数の推移
図4 グラミン・シャクティによる太陽光発電設備導入世帯数の推移
(出典: グラミン・シャクティのデータを基に日経BPクリーンテック研究所が作成)
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 アフリカでは、「Umeme kwa Wote(Light for All)」というプロジェクト事例がスタートしている。独シーメンス系列の照明機器メーカーであるオスラム(OSRAM)と太陽電池メーカー大手の独ソーラーワールド(SolarWorld)が中心となり、2008年4月から2010年10月までケニアのビクトリア湖周辺で実施された。

 このプロジェクトでは、ビクトリア湖および周辺地域の漁師が夜間に漁で使用する灯油ランプを、太陽光で充電した電灯「O-LAMP」で置き換えることが目的だった。これにより、灯油による湖の水質汚濁という環境問題が大幅に改善され、漁師の燃料コストが約40%節約されるなどの効果が上がったという。その後、参加企業の入れ替わりがあったものの、プロジェクト自体は継続され、現在もO-LAMPや太陽光発電システムが利用されている模様である。

 最近の事例では、東京大学のスピンオフ・ベンチャーであるDigital Grid Solutions(デジタルグリッド・ソリューションズ)がアフリカ東部で展開する「WASSHA(ワッシャ)」プロジェクト、世界銀行が4億ドルの無利子融資を行うミャンマーの電化計画「National Electrification Plan(NEP)」における遠隔地域への電力供給なども、オフグリッドまたはナノグリッドといった小規模な分散電源をベースとしている。