円盤:外周部が重く中心部が軽い
円盤投げの英訳はdiscus throw。ちゃんと、「投げる」という動詞が使われているように、木などの胴体に金属の縁枠をはめた円盤を、直径2.5mのサークル内から回転しながら投げて飛距離を競います。右利きだとアスリートは反時計回りになります。34.92°以内の扇形の中に飛んだ円盤が有効です。古代オリンピックから存在する種目で、古代ギリシャの陶器に描かれた、円盤投げをする若い男(紀元前510年~500年)や、ミュロンの「円盤投げ」の彫刻像が有名です。
砲丸投げと同様、飛距離は円盤の初速度、投射高さ、投射角度の他、円盤の角速度、空気抵抗に依存します。先行研究では「仮に初速度や投射高さなどの投射条件が同じであったとしても、異なる特性の円盤を用いることで空気力学的要因による影響も異なり、記録に差が生じると考えられる,それぞれのメーカーにより多種多様な円盤が造られており、形状の違いはほぼないが、慣性モーメントはバラつきが大きかった」と報告されています。
つまり円盤は、形は同じでも、その構造により慣性モーメントが異なります。慣性モーメントは、やはり「ゴルフ」の回でお相撲さんを例に挙げて説明しましたが、回転のしにくさを表す指標です。慣性モーメントが大きいと、回転しにくいが、一度回転を始めると止まりにくいことを意味します。投射条件が同じであれば、慣性モーメントの大きい円盤の方がジャイロ効果(一般には物体が自転運動をすると高速なほど姿勢を乱されにくくなる現象)の恩恵をより大きく受けて、円盤の飛行が安定するのです。
慣性モーメントは、円盤は内部を空洞にして外輪部分に質量を配分する構造にすれば、大きくすることができます。しかし、どのアスリートにとっても慣性モーメントの大きい円盤が良いとは必ずしもいえません。なぜなら、円盤を回転させるスキルや力がなければ、円盤の回転速度を獲得できないからです。
ニシ・スポーツが製造している円盤では、男子上級者向けのものは外輪の重量が全体の重量の約80%となっているそうです。材料は時代とともに、木製、金属製、炭素繊維強化樹脂(CFRP)製に代わる中で、内側を軽く、外側に重量を配分するように製造可能になりました。
1) 宇治橋貞幸, 「スポーツ工学講義資料」, 東京工業大学.
2) 加賀 勝, 「砲丸投げの力学的研究」, 『岡山大学教育学部研究集録』, 第74巻第1号, pp.1-6, 2007年.
3) 日本オリンピックアカデミー編, 「21世紀オリンピック豆事典―オリンピックを知ろう! 」, 楽, 2004年.
4) 前田 奎, 「円盤の特性」, 『陸上競技の理論と実践(第25回)』, 筑波大学陸上競技研究室, http://rikujo.taiiku.tsukuba.ac.jp/column/2014/25.html, 2014年.
・図1の引用表記を修正しました[2018/11/12]