JIS T 8133とSNELL規格

 米国、欧州においてヘルメットの規格が制定されるようになったきっかけは、モータースポーツに深い関わりがありました。米国では1956年、四輪車レース中に起きたWilliam Pete Snellの死亡事故がきっかけになり、翌1957年にSNELL(スネル)記念財団が発足、頭部保護具の性能向上のための基準作りに着手しました。

 同財団は二輪車用、四輪車レース用、自転車用をはじめ、乗馬用、スポーツ用と幅広い分野で使用されるヘルメットの規格を5年おきに見直して改正しています。このSNELL規格は任意規格であって国家規格ではないものの、米国・日本を中心にモータースポーツ分野に限らず、一般向けの乗車用ヘルメット規格として重要なものと位置付けられています。強制的に適用される規格としては、米国・カナダ国内においては乗車用ヘルメットを対象とする米国運用省規格「DOT FMVSS-218」があります。

 欧州においては、1960年にBSI(British Standards Institution)が競技向けに制定した「BS1869」規格が、ヘルメットの国家規格の草分けといえます。乗車用ヘルメットについては、最近はEUに加盟しているほとんどの国が、欧州規格「ECE R22-05」を採用しています。

 日本では、1961 年に決まったJIS B 9907「乗車用安全帽」が乗車用ヘルメット向けの最初の規格でした。制定と同時に、乗車用ヘルメットはJIS 表示品目の指定を受けました。当時の衝撃吸収性試験方法は、ヘルメットをロードセルと直結した人頭模型にかぶせ、上から木製ストライカーを落下させ、ロードセルに伝達された荷重を測定する方法でした。現在の産業用ヘルメットの試験方法と類似しています(図A)。

図A 試験で壊れたヘルメット
図A 試験で壊れたヘルメット
写真:アライヘルメット
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 同規格は、1970年の改正で規格番号が変わり、現在のJIS T 8133「乗車用ヘルメット」になりました。ヘルメット試験方法として、ヘルメットを人頭模型にかぶせたまま吊り上げたのち、下方の基盤に取り付けた鋼製ストライカーに落下させ、衝突させる方法が加わりました。衝突時に生じる最大衝撃加速度を人頭模型の中心部に備えた加速度計で測定します。

 しかし、日本国内で強制的に適用されるのはJIS T 8133そのものではなく、消費生活用製品安全法に基づく国の安全基準です。1973年制定の同法により、翌1974年に乗車用ヘルメットが特定製品に指定され、国内製造品か輸入品かにかかわらず、日本国内において消費者へ販売される乗車用ヘルメットは、国の安全基準を満たしたことを示す「Sマーク」(法律改正により現在は「PSC マーク」)の取得が義務付けられています。実際には、この安全基準の規定や試験方法の多くがJIS T 8133から引用されています。

参考文献
木村 裕彦, 『乗車用ヘルメットの規格と技術変遷』, 自動車技術会Webサイト( https://www.jsae.or.jp/~dat1/mr/motor22/mr20052210.pdf ).
■変更履歴
・図2、3、4、表1、表2に出所を修正・追加しました。表1の内容の一部が以前の規格のものでしたので、最新の規格に準じて更新しました。表2の中で「HIC臨界値」としたのは、正しくは「HIC÷臨界値」でした。お詫びして訂正します。 [2018/08/29]
・図2、3、4,表1,2の引用表記を修正しました。[2018/11/12]