危険な「装飾用ヘルメット」
安全性に関してJISに規格があるのは、乗車用ヘルメットだけです。乗車用以外のさまざまなスポーツ用のヘルメットの安全性に関しては、製品安全協会が定めるSG規格があります。規格内容自体はPSCと同等で、すなわち規定や試験方法の多くがJIS T 8133から引用されています(SG規格には乗車用ヘルメットの規定もあります)。
さまざまな用途の、市販のヘルメットを買ってきて実験してみた結果があります(表2)。高さわずか50cmから落下させたに過ぎないにもかかわらず、加速度が300g以上になり、底付き(ライナーの完全圧縮)現象がみられるヘルメットが半数ありました。
ヘルメット用途 | 最大加速度[G] | 持続時間[ms] | HIC÷臨界値 | ライナー損傷 |
---|---|---|---|---|
レジャー用(1) | 441.9 | 8.61 | 1.84 | 完全圧縮 |
レジャー用(2) | 114.7 | 10.48 | 0.29 | 損傷なし |
ローラ・スケート用(1) | 439.5 | 6.15 | 1.65 | 完全圧縮 |
ローラ・スケート用(2) | 73.2 | 11.35 | 0.15 | 破壊 |
作業用 | 335.7 | 8.5 | 1.92 | 完全圧縮 |
自転車用 | 85.4 | 8.72 | 0.21 | 損傷なし |
アイス・ホッケー用 | 56.1 | 14.37 | 0.11 | 損傷なし |
これまで世の中には、乗車用ヘルメットとしての性能を持たず、国の安全基準PSCマークの表示もない「装飾用ヘルメット」と呼ばれるものが多く出回っておりました。2002年10月から2003年9月までの関東都市圏における調査では、産業用ヘルメットや装飾用ヘルメットなど、安全基準に適合していないヘルメットの着用数は、調査総数3553件中359件と、全体の10%を超えていたそうです。このようなヘルメットを着用して二輪車を運転することは、転倒時にはヘルメット非着用とほとんど同じダメージを頭部に受ける恐れがあり、極めて危険です。
ヘルメットは命を預けるものですし、より安全性を高めようとメーカーは日々努力しています。そのためにも、ユーザーは真剣に性能を吟味し決めるべきだ――もしヘルメット購入を考えている人がいたら、迷わずそうアドバイスしよう、と心に誓いました。
宇治橋貞幸,「スポーツ工学講義資料」,東京工業大学.