レンガや石で作られた家が連なって倒壊――。海外で大きな地震が起きる度に、ニュース映像で見られる光景だ。こうした建造物の崩壊を食い止め、技術の力で地震犠牲者をゼロにするというミッションを掲げるスタートアップ企業が、Asterだ。技術を核としたスタートアップ企業を表彰する「J-TECH STARTUP 2018」のシード枠に選ばれた注1)。
注1) 「J-TECH STARTUP」(主催:TXアントレプレナーパートナーズ)は、最先端のコア技術「Deep Tech」を基盤とした国内のスタートアップ企業を表彰するもの。2019年2月8日にはAsterも登壇する表彰イベントが開催される(詳細はこちら)。
中東や南米などでは、建築物を石やレンガ、コンクリートブロックなどを積み上げて壁を作り、この壁の上に屋根や天井を作る組積造で作るのが一般的だ。ただ、この工法で作られた建造物は、水平方向の力に弱く、地震で倒壊しやすい。
建造物を地震に強くするためには、地面に基礎を作り、その上に木や鉄筋で柱を立てる必要がある。ただ、多くの地域では、こうした工法での建造は難しい。場所によっては、木や鉄筋が容易に手に入らないし、手に入ったとしても柱を立てるような工事にはコストがかかる。一方、石やレンガの原料となる土は、どこでも手に入り、組積造は安価に建造できるため、この工法を根絶するのは難しい。
こうした状況に対して、Asterが2つの技術で対応しようとしている。既存の建造物を補強するコーティング技術と組積造の建造物の構造解析技術である。
前者は、外壁に塗布するだけで、強度が向上するコーティング剤「POWER COATING」である。POWER COATINGは樹脂とガラス繊維の混錬体で、塗るだけで震度7の地震での倒壊を防ぐことができるという。コーティング剤の原料は、壁全面に塗布しても、住宅建設費用の10%増程度で収まるという。
後者は、これまで精度良く解析できなかった、組積造の建造物の崩壊を解析するもの。これまでの解析では簡易的には解析できたものの、どこが崩壊するかなど詳細な分析をすることは難しかった。同社の解析技術を活用することで、建物が地震に耐えられるか否かに加え、被災または倒壊すると診断された場合に、どこをどの程度、補強すればよいかを検証できる。これにより必要最小限のPOWER COATING塗布場所、塗布量を割り出せるという。
まずは、組積造で建てられた建造物の比率が92%と高い、ネパールから進出し、人口の多い、インドやインドネシアなどに進出していく計画である。販売開始7年後には、5000億円超の売り上げを目指す。