このコラムでは、「リアル開発会議」が提案する「どこでも俺のキッチン」の進捗を追っていく。そもそもの始まりは、セラミック基板に光触媒となる二酸化チタンを保持させることで、耐久性と耐熱性を兼ね備え、煙やニオイなどを吸着・分解・消滅させるユニットが登場したこと。

 これまでも光触媒はさまざまな分野で利用されてきた。中でも、今回のユニットにも使用している二酸化チタンは有名だ。紫外線を照射することで非常に強い酸化作用を示す光触媒である。

 ただし、実は、せっかくの効果が最大限に生かされていないケースが多かった。二酸化チタンは粒子が微細であることから、バインダーを使って塗布する手法が主流。この手法ではバインダーの中に二酸化チタンの粒子が埋もれてしまい、反応面積の縮小によって、せっかくの効果が薄れてしまう。また、二酸化チタンの強い酸化作用でバインダー自体が劣化してしまい、長期間使用すると塗膜がはがれる恐れがあった。

 今回のユニットでは、こうした課題を解決する工夫を随所に加えている。まず、多孔質セラミックスの微細な穴に二酸化チタンの粒子を直接担持させることで、下塗りを必要とせず、効果と寿命を両立させているという。さらに、ユニット内では二酸化チタンを担持したセラミックスの板全体に紫外線を照射可能な構造とすることで、光触媒としての効果を最大限に引き出している。ユニット自体は長期間の使用に耐えるため、メンテナンスはほぼ不要である。

イラスト:楠本礼子
イラスト:楠本礼子

 開発企業は現在、厨房施設の脱臭ユニットとしての展開を狙って用途開拓を進めている。煙やニオイ、オイルミストを外に出さずに分解・消滅させる完全無煙・無臭の厨房施設が現実のものになるかもしれない。

 しかも、IHや電熱式といった電気タイプの調理器を使えば、ダクトや排気設備を不要にでき、電源さえあれば、すぐに厨房として使える、“どこでもキッチン”が現実のものとなる。そうなれば、特別の設備や許認可がなくても、飲食店を簡単に開業できるようになる可能性がある。個人や小規模店経営者の開業を後押しするだろう。

 脱臭ユニットは、厨房施設のほかにも多くの用途が考えられる。煙やニオイが気になるペットショップや喫煙所、トイレはもちろんのこと、魚市場やゴミ処理場などでの用途開拓も期待したい。