2015年11月、ある福祉イベントが渋谷ヒカリエで行われた。「2020年、渋谷。超福祉の日常を体験しよう展」(以下、超福祉展)という、従来の福祉のイメージとは違ったインパクトのある名称のイベントだ。まだ一般には聞き慣れない「超福祉」とは一体何なのか。超福祉展を主催するNPO法人ピープルデザイン研究所 代表理事の須藤シンジ氏に話を聞いた。

福祉の常識を変える「超福祉展」のアプローチ

 超福祉展は、これまでの福祉機器とは一線を画した「超福祉機器」を展示するイベントだ。2014年の第1回開催時には、渋谷ヒカリエ「8/」の最高来客数となる1万3000人を記録。第2回となる2015年も、グッドデザイン賞の大賞を受賞した「WHILL」や、同金賞に選ばれた電動義手「HACKberry」など、福祉というカテゴリーを超えて注目が集まるアイテムが展示され、第1回をはるかに上回る延べ3万2000人の来場者を集めた。

超福祉展の仕掛人である須藤シンジ氏。提唱する「ピープルデザイン」の概念とそれに基づいた活動は、日本だけではなく、海外からも注目を集めている
超福祉展の仕掛人である須藤シンジ氏。提唱する「ピープルデザイン」の概念とそれに基づいた活動は、日本だけではなく、海外からも注目を集めている
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 今、国内外から大きな脚光を浴びているこのイベントの目的は、ハードの整備だけでは解決できない、人の心の中にある「意識のバリアー」を取り除くことにある。従来、福祉機器は「身体の不自由な人の行動を補助する道具」という認識が一般的で、デザイン性に着目されることはあまりなかった。

 その中で超福祉展は、「カッコいい」「カワイイ」「ヤバい」といったキーワードをテーマに、デザイン性の高さや、先端技術を前面に押し出し、障害者だけではなく、健常者にも福祉機器をアピールすることで、従来の福祉へのイメージを変えようとしているのだ。このアプローチについて、展示会を主催するピープルデザイン研究所 代表理事の須藤シンジ氏はこう語る。

「そもそも従来の福祉では、障害者がいるところを『オフステージ』、健常者がいるところを『オンステージ』というように分けていました。オンステージの人間は、オフステージの人間のことを『可哀想』『気の毒』と考え、マイナスをゼロにするものとして、福祉機器のことを話してきた。でも、僕らはオフステージの人に福祉機器の情報を届けようとはあまり思っていないんです。『届けばいいな』というぐらいで、むしろ優先順位はオンステージ、つまり健常者の人たちのマーケットにある。オンステージのマーケットでも福祉機器が売れれば、保険が適用されなくても単価は下がるし、作り手のモチベーションも高まり、モノを作り続けていくことができる」

 福祉機器“にも使える”アイテムが普及することで、マーケットは顕在化され、拡大していくということだ。その最たる例が眼鏡である。須藤氏はこう言う。

「僕が子供のころ、眼鏡は眼科で処方されるものでした。フレームを選択する余地なんてなくて、ほとんどが黒縁でレンズが厚いもの。それを着けると『ガリ勉君』と呼ばれ、モテない(笑)。でも今、眼鏡はファッションの一部ですよね。アイウエアとも呼ばれ、ファッションの一部として眼鏡を着替えるし、視力が低くなくてもだて眼鏡をかけている人もいる。オシャレな眼鏡専門店がファッションビルに入っていて、多くの人で賑わっている。今では立派なマーケットになっていて、眼鏡を取り巻く価値観も変わっているんです」

 福祉機器が眼鏡のようにファッションの一部として流通すれば、障害者の人々も負い目なく機器を買えるようになる。それが「意識のバリアー」が取り除かれるということだ。そして、このように障害者の課題を解決するためだけではなく、健常者にも憧れられるアイテムやサービスを生み出し、障害者が健常者に「カッコいい」「カワイイ」「ヤバい」と尊敬される姿が「超福祉」であり、従来の福祉の常識を変えるものと言えるだろう。