2020年の東京オリンピック・パラリンピック、2019年のラグビーワールドカップ(W杯)、2021年のワールドマスターズゲームズと日本では世界的なスポーツイベントが3年連続で開催される。

 このスポーツイベントのゴールデンイヤーズに向けて盛り上がるスポーツ熱を加速すべく、文部科学省などがこの10月に開催する国際会議が「スポーツ・文化・ワールド・フォーラム」(以下、ワールド・フォーラム)だ。オリンピック・パラリンピックをはじめとするムーブメントを国際的に高めるためのキックオフイベントである。

 その名の通りこのイベントの柱はスポーツだけではない。文化による国際貢献や有形・無形のレガシーなどについても議論することになる。同フォーラムのサイトには、こうある。

「『スポーツ』と『文化』は世界の希望です。何故でしょうか? それは強い感動を与えてくれるから。その感動が、人と人をつなげてくれるから。絆が、これからのビジネスを育ててくれるから」

 「感動」「絆」といったスポーツと共通のキーワードを持つ「文化」の分野で、ワールド・フォーラムのアンバサダーに抜擢されたのが、国内外で活躍する映画監督の河瀬直美氏だ。1997年に史上最年少でカンヌ国際映画祭のカメラドール(新人監督賞)、2007年に審査員特別大賞グランプリを受賞。2013年には日本人監督として初めて同映画祭で審査員を務めた。

 今年5月のカンヌ国際映画祭では2部門の審査員長として招聘を受け、また最近では世界での経験と人脈を活かし、愛してやまない地元の奈良で「なら国際映画祭」を組織し、次世代の育成にも力を入れている。そんな河瀬監督にワールド・フォーラムや同映画祭への思い、日本から世界に発信していく意義について聞いてみた。(聞き手は、上野直彦=スポーツライター)

(写真:河瀬直美氏提供)
(写真:河瀬直美氏提供)

―― 河瀬さんが「スポーツ・文化・ワールド・フォーラム」のアンバサダーに就任した経緯を教えてください。

河瀬 藤沢久美(文科省参与、ワールド・フォーラム準備室 リーダー)さんとのご縁もあって実現したと思います。東京オリンピック・パラリンピックなどを控えたところで、日本が持っているポテンシャルをしっかりと、いい形で世界にアピールしていくという使命をいただいたのかなと。

―― アンバサダーとしての抱負はいかがでしょう。

河瀬 私は私にできること、そのいちばん深いところをしっかりやっていきたいと思います。私は奈良に住んでいますが、奈良というところは日本で一番古い町で、そこでこそ文化が始まった、何かが花開いた地域です。地方都市は経済が潤っていないというような、そういうひと括りで評されることがありますが、「地方にこそ宝物があるのだ」「地方都市にこそ、もっともっと発見しなければいけない、日本を代表する宝物があるのだ」と考えています。足もとを見つめながら、地元の子どもたちと一緒に世界に発信していきたいと思っています。

 日本人の素晴らしさは、「自分たちのことだけをアピールするのではなく、自分たちではないものを認め合いながら共存していくことをずっとやってきた」ということがあるように思います。共存の対象は人間だけではありません。自然もあるでしょう。そのような文化をアピールしていければいいなと思っています。

―― 最近、ダイバーシティー(多様性)が様々な場でキーワードになっていますが、そもそも日本の文化にはそれがあるということですよね。

河瀬 そうですね。高らかに今、それを掲げなくても、ずっと私たちがが持っていることです。文化の多様性を受けとめることはずっと先人たちがやってこられたことです。それをきちんと続けるということが、世界へのアピールにもつながります。