静かな盛り上がりの要因としては、日本を含め海外からの観光客が前回のロンドン五輪を大幅に下回る見通しなことがあるだろう。もっと問題なのが、現地の人にとって「富裕層のためだけの祭典」になってしまっていることだ。五輪競技のチケット代は、ブラジルの平均的な所得層が手軽に購入できる価格ではない。

 チケット代は競技によってかなり異なるが、人気がある水泳などは1人3万円程度、7人制ラグビーでも1人6000円程度。これではブラジル庶民は、とても手が出せない。外国人ばかりが目立つスタンドは、ブラジルの現在を象徴するような光景だった。

 もっと残念なことに、会場には空席が目立つ。オリンピック公園内にあるアクアティクススタジアムでの競泳とデオドロ地域にあるスタジアムで女子ラグビーを観戦したが、満席でチケット取得に苦労した競泳でも空席率は2~3割あり、割り当て分を販売しきれなかったと思われる。

 女子ラグビーの会場は空席が目立ち、客の入りはわずか3割ほど。これでは選手の士気にも悪影響を及ぼしかねない。

深夜1時過ぎのヒヤヒヤの帰還

 リオ五輪は運営面のまずさも目立つ。

 例えば、競泳の決勝の競技時間は米国のテレビ局の事情に合わせて開始が午後10時と遅い。終了時には日付が変わっている。

 治安に問題のあるリオだが、大量の観客がオリンピック公園から吐き出され、警官の姿も目立つ午前0時過ぎはさほど危険を感じない。

競泳競技終了直後のオリンピック公園の様子。時間は午前0時を過ぎている(写真:ユーフォリア)
競泳競技終了直後のオリンピック公園の様子。時間は午前0時を過ぎている(写真:ユーフォリア)
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 しかし、それから1時間ほど経つと、辺りには不穏な空気も漂ってくる。我々もなかなかウーバー(乗り合いタクシー)を捕まえられず、なんとか車に乗ったのは午前1時半近く。不安を抱えながらの帰還となった。

 五輪のような世界規模の大会では通常、メーン会場間はシャトルバスが運行される。しかし、それがないばかりか、会場間は距離が遠く、道路は混み、そして治安に大きな不安を抱えている。正直なところ、五輪パーク周辺に宿泊しないと、夜間に開催される競技は治安上、観戦をお勧めできない。

ラグビー、ホッケー場などがある、デオトロ・オリンピックパークの入口。軍隊が出動して厳重に警備している(写真:ユーフォリア)
ラグビー、ホッケー場などがある、デオトロ・オリンピックパークの入口。軍隊が出動して厳重に警備している(写真:ユーフォリア)
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 五輪は巨額マネーが動くビッグビジネスである。莫大な放映権料を支払う米国のテレビ局の事情が優先されることも知っている。ただ、現地で「スポーツの祭典」を盛り上げることに一役買っている観戦者の安全性なども、真剣に考えて欲しいものだ。