スポーツ量販店大手のゼビオグループが、スポーツビジネスの取り組みを加速している。前回までに紹介したアリーナビジネスを柱の一つとすれば、もう一つの柱はスポーツのリーグやチームの運営だ。

 手がけるリーグやチームは多種多様である。3人制バスケットボール(3×3)のプロリーグ「3×3.EXE PREMIER(スリー・バイ・スリー・ドット・エグゼ・プレミア)」の運営、米メジャーリーグ(MLB)と組んで運営している草野球の日本一決定戦「MLBドリームカップ」、世界最高峰の障害物レース「スパルタンレース」、バドミントン S/Jリーグの国内上位4チームが出場するカップ戦「トップ4トーナメント」、アイスホッケーチームの「東北フリーブレイズ」…。

 ゼビオグループは、これらの取り組みを主力ビジネスの小売店舗と両輪を成す存在と位置付ける。同グループでスポーツのリーグやチーム、アリーナの運営を担当するクロススポーツマーケティングの中村考昭社長に、世界初の3×3プロリーグ「3×3.EXE PREMIER」を題材にスポーツビジネスの運営の考え方について聞いた。

(聞き手は、高橋 史忠=日経BP総研 未来ラボ、
石井 宏司=スポーツマーケティングラボラトリー)

都市化が進むほど、開催会場が増えていく

―― 前回まで、アリーナビジネスを中心にゼビオグループの取り組みを聞いてきましたが、中村さんが率いるクロススポーツマーケティング(XSM)は、もう一つの柱としてスポーツのリーグやチームの運営を手がけています。アリーナビジネスと同様に、リーグやチームの運営は小売店ビジネスと両輪を成すと話していましたが、手応えはありますか。

中村 考昭(なかむら・たかあき)
中村 考昭(なかむら・たかあき)
クロススポーツマーケティング 代表取締役社長。1972年大阪生まれ。一橋大学法学部卒業。リクルート、A.T. カーニー、スポーツマーケティング会社を経て、 2010年5月ゼビオ入社、2011年4月より現職。Jリーグ東京ヴェルディ取締役、アジアリーグアイスホッケー東北フリーブレイズ代表取締役オーナー代行、FIBA/JBA公認3人制プロバスケットボールリーグ「3x3 PREMIER.EXE」コミッショナーを兼務

中村 手応えは感じています。例えば、3×3のプロリーグを始めてから5年目になりますが、バスケットボールに関連した商品の店舗での売り上げは、堅調に伸びています。少子高齢化が進む中、団体競技スポーツにもかかわらずバスケ関連の商品の伸びはいいペースです。これはゼビオグループだけではなく、同業他社も同じ傾向だと思います。

 もちろん、3×3のプロリーグだけが理由ではありません。その間に日本バスケットボール協会(JBA)の改革や、5人制のプロリーグ「Bリーグ」の誕生などがありましたし、ストリートバスケは昔から存在したわけで、我々が3×3を全くゼロからつくり出したということでもありません。

 3×3のプロリーグ設立の位置付けは、もともと存在していたバスケへの関心を表に出して、呼び起こしたことだと考えています。部活などの競技として関わることはやめたけれどもバスケを続けている人はたくさんいて、そういう人たちが再びプレーを始める、もしくはもっとプレーするというところに再度火をつけた。その点で貢献したのではないでしょうか。

―― 3×3.EXE PREMIERの資料によれば、観戦などでリーグの試合に触れた人数は、2017年に前年比2.4倍の38万人だったそうですね。これは、どういう数字なのでしょうか。

中村 日本野鳥の会ではないですが、試合を観戦している人を大会を開催する現地でカウントしています。会場の動線に設置した計測装置で、一定時間滞留したWi-Fiの電波を拾って、その数を計測するダブルチェックの仕組みも導入しています。

―― なるほど。「通りすがりではなく、きちんと試合を見ている」ということをチェックしているわけですね。今年はチーム数を増やすとのことなので観戦者も増えそうです。

中村 そう期待しています。6月に開幕する2018年シーズンは、参加チームが昨シーズンの18チームから36チームに倍増します。6地区のカンファレンスに分かれて8ラウンドの大会を開催し、順位に応じてポイントを付与。そのポイントの合計でカンファレンスごとの順位を決め、プレーオフで総合優勝を決める仕組みです。

 公式戦は、各地のターミナル駅前や大型商業施設などの街の象徴的な場所を試合会場にしています。グッズを購入した人だけが入れるエリアを用意する場合もありますが、基本はオープンスペースで観戦は無料です。2017年シーズンは12会場で大会を開催しました。土曜日と日曜日で開催し、2日間の観戦者数は2万1000〜4万9000人程度でした。

―― かなりの人数ですね。大型商業施設などの試合会場は、リーグで借りるのですか。

中村 借りるケースと誘致されるケースがあり、基本的には誘致していただいています。大会の誘致にかかる費用は200万円くらいで、商業施設で集客のために開催するヒーローショーやお笑いライブなどとあまり変わらない水準です。

 それくらいの費用で「プロの試合を開催してよ」と言っていただいたら、我々は「分かりました」と会場をバーンと設営し、半日の楽しいプロの大会、お祭りを催します。ヒーローショーでは、例えば20〜30分のステージを1日に3回といった開催イメージと思いますが、3×3の大会は4〜6時間ずっと様々なイベントをやりますので集客面を考えるとお得だと思いますね。

2017年8月にイオンモール岡山(岡山市)で開催した3x3.EXE PREMIERの大会の様子。ショッピングセンター内の吹き抜け部分に試合会場を設置している(写真:3×3.EXE PREMIER)
2017年8月にイオンモール岡山(岡山市)で開催した3x3.EXE PREMIERの大会の様子。ショッピングセンター内の吹き抜け部分に試合会場を設置している(写真:3×3.EXE PREMIER)

 3×3の大きな強みの1つは、都市化が進むほど、社会インフラの整備が進むほど、専用のコートを造らずに済むようになることです。これは、スポーツの中では珍しい特徴です。駐車場を試合会場にできますし、ショッピングセンターの吹き抜け広場でも構いません。試合に使うハーフコートの広さは15m×11m程度で、そこにゴールを立てるだけなので。

 他のスポーツでは多くの場合、社会インフラの整備が進むとプレーする場所がなくなっていき、専用のフィールドを造らなければならなくなります。例えば、野球も昔は公園や草原で遊びの一環としてプレーできましたが、最近ではボール遊びができない公園も多い。都市の中ではプレーできるスペースがどんどんなくなって、専用グラウンドが必要になっていますよね。