2016年、一つのプロジェクトが始動した。
かねて日本のスポーツ界を変えようと熱い思いを持つ有識者や行政関係者、元アスリートたちが進めていた「スーパートレーニングセンター」構想である。
この構想はアスリートのためのスポーツ・文化総合施設などの実現を目指しており、現役アスリートのトレーニングやリハビリ、また引退したアスリートの雇用機会の創出や地域経済の活性化まで視野に入れている。
プロジェクトの実現のため、準備してきたのは構想の中心人物である元ラグビー選手の福永昇三氏だ。福永氏は、主旨に賛同した五輪3連覇の柔道家・野村忠宏氏らと2015年6月に「株式会社アスリートアイランド」を設立している。
そして福永氏がこのビジョンを実現する場所に選んだのは、沖縄。プロジェクトは沖縄のスポーツシーンや地元の経済にとっても次世代への第一歩となる。
福永氏はプロラグビー選手の草分け的存在だ。ラグビーのトップリーグが創設された2003年に「三洋電機(現・パナソニック)ワイルドナイツ」で初代キャプテンとなる。5年後には日本ラグビーフットボール選手権大会で悲願である日本一の栄冠を手にした名選手だ。ラグビー関係者をはじめ、ほかの競技でも福永氏を慕う者は多く、笑顔を絶やさない人柄から選手たちの“いい兄貴分”でもある。
福永氏はプロジェクト実現のため、2012年から家族で沖縄へ移住した。これだけでも、彼の決意は並大抵のものではない。なぜ、この構想を思いついたのか。なぜ、沖縄なのか。どんなビジョンを持っているのか。現役時代の「ある後悔」がすべてのきっかけとなっていた。
JISSで体験した「世界基準」のスポーツ
福永氏は感慨深げに振り返った。
「ワイルドナイツでプレーしていた時代のことです。国立スポーツ科学センター(JISS)でリハビリをさせていただいたんです。まさに『世界標準』の最先端の設備や質の高いトレーナーの指導を体験して、『もっと早くこういった場所を知りたかった。もっと早く利用していたら、自分の身体はここまでひどくならなかった…』とすごく後悔しました。ほかのアスリートに自分と同じ思いはさせたくない。これが、すべての始まりなんです」
東京・西が丘にあるJISSには優秀なトレーナーが多数いて、筋肉や骨の構造、トレーニング法など世界最先端の知識が共有できる。ただし、日本オリンピック委員会(JOC)に加盟する競技団体の中で活動している日本代表クラスの選手しか利用できないのも現実だ。
福永氏は高校生のころ、右ひざの前十字靭帯を断裂するという大怪我を負った。しかし、当時はリハビリ方法が分からず、復帰に1年以上もかかってしまう。ところがワイルドナイツで左足の全く同じ部位を同じように怪我した際には、プロ選手だったためJISSを使用できて驚異的なスピードで回復、たった5カ月で練習に復帰できた。施設だけではなく、トレーニング法という“ソフト”もJISSは世界基準だった。“ケガをしにくいスクワット”など、フィジカル面のリスクを管理できるトレーニングメニューが存在することも福永氏は初めて知った。
「本当に現役時代は、ケガに泣かされました。今までに受けた手術は10回以上です。もし、学生時代に最先端のトレーニング法や、身体のケアに関する知識を知っていればムダな怪我をすることはなかった。もっともっと現役を続けられたのではないでしょうか…」
そんな気持ちが今も胸をよぎる。