コンピューターゲームから生まれた新しいタイプのスポーツとして注目を集める「eスポーツ」。2018年にインドネシアのジャカルタなどで開催されるアジア競技大会では参考種目に、2022年の同大会(中国・杭州)では正式種目となる予定だ。平昌オリンピックの開催に先立って現地でイベントが開催されるなど五輪競技を目指す動きが本格化している。日本でも2018年2月に国内のeスポーツ普及を推進する新団体「日本eスポーツ連合」の設立が発表された。Jリーグ(日本プロサッカーリーグ)のようなスポーツ組織に加え、吉本興行やサイバーエージェントグループなど、エンターテインメントやインターネット関連の企業による参入も相次ぐ。

 eスポーツは、なぜ世界的な盛り上がりをみせているのか。今後10年のスポーツビジネスを展望したレポート『スポーツビジネスの未来 2018-2027』(日経BP社)で「eスポーツの未来」について執筆した、日本eスポーツリーグ参戦のプロクラブ「名古屋OJA」でオーナー兼代表取締役社長を務める片桐正大氏に聞いた。同氏は、スポーツビジネスを大きく変える可能性を秘めた様々な潜在力に、eスポーツが注目を集める理由があると語る。
(聞き手は、久我 智也)
平昌五輪の開幕直前の2018年2月5日~7日。氷上競技が行われた江陵(カンヌン)市内で、米インテルが主催するeスポーツの世界大会が開催された。初めて国際オリンピック委員会(IOC)が公式にサポートした(写真:インテル)
平昌五輪の開幕直前の2018年2月5日~7日。氷上競技が行われた江陵(カンヌン)市内で、米インテルが主催するeスポーツの世界大会が開催された。初めて国際オリンピック委員会(IOC)が公式にサポートした(写真:インテル)
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省時間、省スペース、省初期投資

―― 片桐さんは「eスポーツはスポーツビジネスそのものを劇的に変化させる破壊的イノベーションとなっていく可能性がある」と『スポーツビジネスの未来 2018-2027』で指摘しています。確かに、この2〜3年は五輪競技化を目指す動きも活発で、eスポーツ周辺は大いに盛り上がっています。

片桐 そうですね。背景には、eスポーツが持つ様々な特徴が関心を集めていることがあると思います。その特徴を分かりやすく説明するために、今回は野球やサッカーなどの従来のスポーツ、いわゆる「リアルスポーツ」のマイナス面をあえて切り取りますが、決して「リアルスポーツよりも、eスポーツの方がすごい」ということが言いたいのではないということは、ご理解いただければ。

―― 分かりました。片桐さんはプロ野球球団をはじめ、リアルスポーツのビジネス経験も長いのですよね。

片桐 はい。リアルスポーツのプレーヤーでもありますから、リアルスポーツは大好きです。両者は共存共栄で、新しいスポーツビジネスを形づくっていくと考えています。

 その上でリアルスポーツと比べたeスポーツの特徴を考えると、まず「省時間・省スペース」が挙げられます。

新時代のスポーツとしてのeスポーツの姿
新時代のスポーツとしてのeスポーツの姿
(図:片桐正大氏が作成/日経BP社『スポーツビジネスの未来 2018-2027』より)

 例えば、正式ルールで野球やサッカーの試合を成り立たせるためにはグラウンドを用意して、両チーム合わせて最低でも、野球ならば18人、サッカーならば22人のプレーヤーを集める必要があります。審判もお願いしなければなりません。ある程度のプレーの質を担保しようと思えば、チームメンバーや対戦相手の技量をそろえた方がいい。さらに、グラウンドまでの移動時間もかかりますし、けがのリスクもあります。

 試合を成立させるハードルは、プロスポーツになるとさらに高くなります。観客を集めて収益を上げるには大きなアリーナやスタジアムが必要で、場合によっては施設を建設・運営・管理するコストがかかります。チームの練習場も必要でしょう。ビジネスを成り立たせるには、指導者やトレーナー、試合の運営スタッフなどの人的コストも想定しなければなりません。

 eスポーツは、試合やビジネスを成り立たせる費用のハードルがぐっと低くなります。対戦がオンライン上で行われるからです。パソコンとネット接続環境を用意すれば試合ができますし、選手もファンも場所や時間の制約をほとんど受けません。けがの心配もほぼないですよね。オンライン上でシステム化すれば、自分と同レベルの対戦相手を見つける仕組みをつくることもできます。