連載の第2回では、地元企業のサムスン電子が力を入れていたVR(仮想現実)のショーケースを紹介した。こうしたVR技術は、スポーツの「観戦体験」を大きく変える可能性を持つ。連載最終回は、VR以外に平昌オリンピック(五輪)で観戦体験のみならず競技や選手を支えていたテクノロジーなどに触れる。
2016年のリオデジャネイロ五輪でも話題になった「自由視点映像」は、平昌五輪ではフィギュアスケートで多用された。男子シングルで金メダルを獲得した羽生結弦選手のジャンプシーンが、さまざまな角度からの視点に切り替わる映像をテレビでご覧になった方も多いだろう(図1)。
観客席の後方に設置された約100台ものカメラの映像から、選手の部分を切り出して合成したCG映像だ(図2)。
平野歩夢選手が銀メダルを獲得した男子スノーボード・ハーフパイプにおいても、「エア」と呼ばれるジャンプの演技を的確に配信するために、至近距離を含めて数十台のカメラが会場に配置された。競技中は選手がハーフパイプでエアを計5~6回飛ぶごとに、カメラを素早く切り換えながら映像が配信された。
また五輪としては今大会で初めて、選手がウエアラブルデバイスを体に装着し、エアを何メートル飛んだのか、何回転したのかなどが自動計測された。テレビ中継ではエアの高さが画面左上に表示され、視聴者は選手がどれくらいの高さを飛んだのかがすぐに分かるため、採点の根拠も理解しやすかった。
こうした様々なテクノロジーが、五輪という最高峰の舞台で試行された。その流れは今後も加速し、テクノロジーは選手の強化やトレーニングなどで益々使われていくだろう。
一方で、今回、現地で観戦して改めて感じたのは、多くの競技はテレビで観戦した方が断然に分かりやすいことだ。例えば、フィギュアスケートではアリーナの中央にある大型モニターに自由視点映像も表示されたりはするが、テレビ放送ならパラパラ漫画のようにジャンプの軌跡を表示するコマ送り映像も表示されるし、ジャンプなどに対する解説もある(図4)。
もちろん、現場でしか味わえない空気や熱狂の価値は変わらないのだが、テクノロジーの進化によって、五輪のみならずスポーツ観戦の形態は確実に変わっていくことを感じた。
売り切れのはずなのに目立つ空席
一方、課題が見えたのがチケッティングだ。日本人選手の活躍が期待されたスキーのジャンプ競技など、テレビ放送でも空席が目立つ競技が少なくなかった。筆者はノルディックスキー複合のクロスカントリーを観戦したが、スタンドの奥の方は空席が多かった(図5)。
今回のチケットはインターネットで事前に購入できた。価格は競技によって、数千円から最高10万円以上と幅があったが、特に人気が高いフィギュアスケートでは中間グレードの席でも4万~6万円ほどもした(図6)。日本からのフィギュアスケート観戦パックツアーの中には、価格が100万円近いものまであると聞いた。
ところが、フィギュアスケートなど入手が“最難関”で売り切れたはずの競技でも、客席が埋まっていないシーンが見られた。これには様々な理由が考えられるが、本当に競技を見たい人のために、今後の改善の余地はまだまだ大きいと痛感した。