プロ野球やJリーグ、Bリーグなど、スタジアムやアリーナで繰り広げられる公式戦が賑わいを見せる季節が到来している。プロスポーツリーグの生命線となるライブイベントを支えるビジネスは今後、どのように進化していくのか。今後10年のスポーツビジネスを展望したレポート『スポーツビジネスの未来 2018-2027』(日経BP社)で「ライブイベントの未来」について執筆した、Bリーグ常務理事・事務局長の葦原一正氏は、「これからの10年、ライブイベント関連のビジネスの主役は、スマートフォン(スマホ)やデータ分析、VR(仮想現実)/AR(拡張現実)といったIT(情報技術)だ」と見ている。(聞き手は、久我 智也)

ライブイベントのカギを握るIT

―― 葦原さんは「ファンが観戦に至るまでの利便性向上と、観戦中のエンターテインメント性を高めるために、これまで以上にITが大きな役割を果たすようになる」と『スポーツビジネスの未来 2018-2027』で指摘しています。

葦原 スポーツのライブイベントは、大きくチケットを「買う」、試合を「観る」という2つのファンの消費行為に支えられています。いずれも今後は、スマホやビッグデータ分析、VR/ARといったIT関連の技術開発がカギとなる。これは間違いないと思います。

 例えば、「買う」行為では、スマホやウエアラブル端末を用いた電子チケットによるチケットレス化が当たり前になるでしょう。紙のチケットは、これからの10年で次第に姿を消していくことになります。需給バランスでチケットの価格が決まる「ダイナミックプライシング」や、購入したチケットを転売やリセールなどで2次流通させる「セカンダリーモデル」も普及していくと思います。

 「観る」行為では、VR/ARを活用したり、パブリックビューイングを進化させたりする新しい観戦スタイル、観戦者の顧客データを分析して一人ひとりのファンに適切にアプローチするワン・ツー・ワンのデジタルマーケティングなどが広がっていくでしょう。

スポーツのライブイベントにおけるスマホファースト
スポーツのライブイベントにおけるスマホファースト
(図:葦原 一正氏が作成/日経BP社『スポーツビジネスの未来 2018-2027』より)

―― 「これから10年、ライブイベントビジネスの主役はIT」ということですね。

葦原 そうです。例えば、チケットレス化を考えただけでも、店舗に足を運んで紙のチケットを発券する手間がなくなり、チケットを失くしたり、自宅に忘れたりするリスクが減ります。スタジアムやアリーナに入場する際の待ち時間も短くなるでしょう。観戦者にとっては、大きなメリットです。

 試合を主催するチーム側にとっても、チケットのもぎり担当などのスタッフを減らせることに加え、正確な入場者数を把握したり、マーケティングデータを取得したりしやすくなります。Bリーグは電子チケットによる入場を推進していますが、この動きは今後、他のスポーツでも急速に進んでいくでしょう。

 日本ではまだ紙のチケットが主流ですが、スポーツビジネス先進国の米国では、この数年でチケットレス化が急激に進行しています。例えば、米プロバスケットボールリーグ(NBA)のクリーブランド・キャバリアーズでは、2016年に観戦者の実に98%が電子チケットで試合会場に入ったそうです。

―― 米国では、ダイナミックプライシングの導入も数年前から話題になっています。

葦原 ダイナミックプライシングでは、チケット販売における需要と供給の状況に応じてチケットの価格を変動させ、需給を調整します。つまりチケットの価格を「時価」にするわけです。

 繁忙期と閑散期で価格を変える手法は、航空券やホテルの宿泊などでは以前から取り入れられています。スポーツに置き換えると、例えば優勝決定戦や記録がかかった試合など需要が高まる試合のチケット価格は高めに設定し、消化試合の価格は低く設定するような取り組みですね。うまく導入すれば、収益の最大化や、集客増、顧客満足度の向上につながるので、今後は国内外の様々なスポーツリーグで採用が広がっていくのではないでしょうか。