情報通信研究機構(NICT)が開発した、筋肉のボリューム(大きさ・形状)と干渉(ぶつかり合い)による変形を考慮した新しい仮想人体筋骨格モデル「Def Muscle(デフ マッスル)」。従来モデルでは表現しきれなかった肩・体幹などの複雑な筋肉の位置関係および筋力の作用ベクトルを表現でき、運動神経科学やリハビリ・スポーツなどのバイオメカニクス関連分野における運動解析の精度が向上し、特にこれまで重要とされながらも手に負えなかった肩こりやスポーツ肩障害の予防研究への応用が期待できる。

今回開発した筋骨格モデル(図:NICTのプレスリリースより)
今回開発した筋骨格モデル(図:NICTのプレスリリースより)

 公開したソフトウエアは、体の姿勢に応じて変化する筋肉の形状や位置関係を可視化する機能と、関節への作用を決定する筋力の作用ベクトルを出力する機能を持つ。

 筋骨格モデルは、人間工学やバイオメカニクス関連分野において幅広く用いられており、ヒトの運動を対象にしたあらゆる分野で必須のツールになりつつある。その一方、従来の筋骨格モデルは、筋肉をボリュームのない直線や折れ線に単純化しているため、筋が骨の中に埋まったり、本来表層にあるべき筋が深層の筋の内部に埋まったりといった不自然な状況が起きてしまう場合があった。

 この問題を根本的に解決するには、筋肉のボリュームおよび干渉による変形を考慮した筋骨格モデルが必要になるが、ボリュームの変形には多大な計算コストがかかり、モデル開発の大きな障壁となっていた。今回、近年急速に発展したGPU並列プログラミングの手法を取り入れることで、肩周辺の33本の筋肉のボリュームと干渉を考慮したモデルを、スーパーコンピューターではなく、GPU搭載パソコンで動作させることに成功した。