本記事は、日本機械学会発行の『日本機械学会誌』、第119巻第1172号(2016年7月)に掲載された記事の抜粋(短縮版)です。日本機械学会誌の目次、購読申し込みなどに関してはこちらから(日本機械学会のホームページへのリンク)

 近年、スポーツ工学やバイオメカニクス分野で、さまざまな競技種目の動作中の選手を対象とする運動の解析が活発に行われている。特にモーション・キャプチャーや加速度計などのセンサーを用いた「動作計測手法によるアプローチ」による、自身や他の熟練選手の運動情報の評価・観察とその分析は、運動スキル獲得の非常に有効な手段である。

 ただし、自身のパフォーマンス・レベルとかけ離れた運動では、観察学習の効果は期待できないといわれる。また、定量的分析により他の熟練選手の熟達した動作を計測できても、身体的特徴が異なれば必然的に最適な動作は異なり、そのまま他選手にフィードバックしても運動スキル向上につながるとは限らない。

 「最適化モデル・シミュレーションによるアプローチ」は、選手の人体剛体リンクモデルの順動力学(Forward Dynamics)計算を用いて、目的とする評価関数を最適化する制御変数(関節トルクなど)を最適化アルゴリズムで生成する手法である。スポーツにおける最適化シミュレーションを用いた優れた研究は多数存在するが、ここでは筆者らが取り組んできた用具特性と身体運動スキルの同時最適化や、筋骨格モデルによる筋活性度の最適化シミュレーションを用いた「サイバネティック・トレーニング」への応用研究事例を紹介する。

棒高跳びモデルのポールとスキルの同時最適化例

 棒高跳びは自由に選べる用具(ポール)を用いたスポーツの1つである。従来のスポーツ研究では、用具の最適設計やスキルの最適化などはほとんどが別々の試みだった。しかし、用具が変わればそれに応じてスキルも変わるべきで、用具とスキルの同時最適化が必要だ。

 とはいっても、棒高跳びでは踏み切りスピードや角度、ポール特性、時間変化する各関節トルクなど、多様なパラメータの複雑な組み合わせで跳躍高さが大きく異なる。つまり設計変数が多くて最適解を求めるのが難しい。そこで高速計算に定評があるOpen Dynamics Engine(ODE)を用いた連成モデルを構築し、遺伝的アルゴリズム(GA)による同時最適化を行った。

 実際のODE棒高跳びモデルの最適化例では、最適用具特性(ポールの曲げ剛性分布)と最適スキルが同時に導くことができ、最適化されたフォームを示せた。これによると、選手の体重が大きいときは、ポールの曲げ剛性の平均は高いものを選択するのがよく、またポール中央のセグメントの曲げ剛性が他のセグメントより低いポールが合う。