古谷 賢一=ジェムコ日本経営、本部長コンサルタント、MBA(経営学修士)
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古谷 賢一=ジェムコ日本経営、本部長コンサルタント、MBA(経営学修士)
 ものづくりの工場はもちろん、あらゆる分野の管理者が抱える共通の悩みがある。それは、役職が上がるにつれて、自分の専門外の分野でも管掌していかなければならないことだ。一方で、いくら努力をしても人間の能力には限界がある。では、どうすれば自分の専門外の分野であっても管理者としての役割を果たすことができるのだろうか(図1)。

強い工場づくりのポイント

 今回は、専門外の分野や得意ではない分野であっても、管理者が適切に管理することを可能にする強力な武器について考えてみたい。それは「見える化」だ。本来、自分が管掌する組織全体を見なければならない管理者が、「自分が分かることにしか手を出さない」という失敗を犯さないようにするためにはどうすればよいか。それが今回のテーマである。

図1●管理者は役職が上がるにつれ、自分の専門外の分野でも管掌していかなければならない。どのようにして管理すればよいだろうか?
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図1●管理者は役職が上がるにつれ、自分の専門外の分野でも管掌していかなければならない。どのようにして管理すればよいだろうか?

あるある事例

 まじめで優秀な「製造一課」の課長A氏が、その能力を見込まれて製造部長に抜擢された。抜擢を決めた経営陣は、この人事でA氏がさらに力を発揮してくれるものと、大いに期待していた。

 A氏は会社の期待に応えるべく、最初は意気込んで業務に励んでいた。しかし程なくして、組織のあちこちから「部長は生産現場に籠ってばかりいる」「自分で判断を下さずに、全て課長に丸投げしている」といった不満が噴出するようになった。責任感にあふれ優秀であるとA氏を評価していた経営者は、そうした不満の声が上がってきたことをにわかには信じられなかった。ところが、本人との面談を含め、実際に状況を調べてみるとその通りであった。

 製造一課は仕上げ工程を担当しており、A氏はそこで経験を積んできた社員だった。仕上げ工程の作業に対する豊富な経験とノウハウを持っており、過去にはさまざまなトラブルに直面しながらも的確に問題を解決してきた。しかし、昇進した製造部長の職務は、製造一課だけではなく、加工工程を担う製造二課や検査工程を担う製造三課を含む、全ての課を統括することだった。

 A氏は持ち前の「技術者魂」で加工や検査分野の理解を深めようと努力した。だが、それぞれの分野で働く課長や係長の技術レベルと知識にはかなわなかった。それでも、A氏は自らの知識を総動員して改善提案などを行ったのだが、周囲からは「あの部長は何も分かっていない」とあきれられ、ついには批判されるようにすらなってしまった。

 結局、未経験の分野を管理しなければならない立ち位置になじめなかったA氏は、自分のスキルが通用する製造一課の現場にばかり通うようになった。そして、製造二課と製造三課の案件は「課長の意思を尊重する」という名目で各課長に任せ、自らは判断を避けるようになってしまった。