なぜ、このトラブルは起きたのか

 あるある事例で紹介したケースは、ある会社の検査工程で発生したものだ。皆さんの中にも同様の経験をした人は多いのではないだろうか。何かの原因があって検査員の検査基準が厳しくなりすぎてしまう、あるいは逆に検査基準が緩くなりすぎてしまうことは決して珍しいことではない。

 例えばこの事例のように、顧客からのクレームや問い合わせがきっかけとなり、検査員が「より注意深く」検査を行うようになることがある。検査規格ギリギリの良品があった場合、これまでであれば良品判定にしていたのに、不安なので不良判定にしてしまうというケースだ。これと逆の場合もある。例えば、急な増産や顧客からの納期前倒しの要請などで生産がひっ迫し、検査工程でも作業を急かされる場合だ。これまでであれば迷って慎重に判断を行っていたような検査規格ギリギリの不良レベルのものを、大丈夫だろうと即断で良品判定してしまい、結果として検査基準が緩くなってしまうケースである。

 検査工程以外でも、作業内容が時間の経過とともに変わることがある。作業者が慣れることにより、作業の手順を省略したり簡素化したりすることがあるのは先述の通りだ。検査工程と同様に何かトラブルがあったりすると、それをきっかけにより慎重な作業を行う作業者が出てきたり、その人なりに作業内容を工夫(もちろん、勝手に作業内容を変えることになるのだが)したりする作業者が出てくることもある。

 このように、さまざまな理由で「人の作業」の内容や水準は、作業者に教育を施した直後から時間の経過とともに変化する危険性があるのだ。確かに、機械でも時間の経過とともに治具や刃具の摩耗や機械のガタなどによって仕上がりが変化することはある。だが、この場合は設備保全により予測が可能だ。これに対し、人が行う作業の変化は予測がつきにくい。従って、定期的に作業に対する力量や作業手順などを確認する必要があるのだ。

 こうしたことを踏まえて、作業者が正しい作業をしているか否かを確認し、作業内容や水準を維持するための方法を紹介しよう。

[1]定期的な作業認定の更新
 通常、作業者に教育・訓練を施して作業認定を行っている会社は、どの作業者が、どの作業に従事することができるのか(どの作業に対して作業認定を受けているのか)に関してスキルマップを作成している。このスキルマップをベースに、不足している作業に対して新たな教育対象者を選定したり、作業者に対して多能化計画を立案したりする。

 このスキルマップの運用に際し、作業認定の有効期限を設けるのである。

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 それぞれの作業認定に対し、例えば1年や2年といった有効期限を設けて、有効期限が来たら、認定試験(教育・訓練)をやり直す。外観検査などのように、少しでも作業内容が変わると品質に大きく影響するような作業に対しては、1年といった比較的短いスパンで有効期限を切る。一度覚えたらそれほど作業内容が変わらないようなものであれば、2年や3年といった比較的長いスパンで有効期限を切る。

 再度実施する教育・訓練の内容も、知識や技量を見極めたい場合には、きちんとした実技試験や筆記試験を課す。一方で、作業内容の理解の確認にとどめることができる場合は、実際の作業を行い、作業上の注意点やコツを話してもらいながら理解を確認するという簡略化した方法を取る。このように、定期的な作業認定の運用に対しては、その影響の度合いに応じて軽重を考えればよい。

[2]作業手順書の読み合わせ
 作業認定の有効期限の更新に対し、実技や筆記といった認定試験を行うものは一部の工程に限定される。多くの工程では、理解のチェックにとどまることだろう。その場合の手段として、「作業手順書の読み合わせ」が有効だ。作業認定の更新対象者と別の作業者が、それぞれ作業手順書を見ながら作業手順の再確認を行うというものだ。

 進め方には幾つかあり、例えば、1人が作業手順書(手順や注意点)を読み上げ、もう1人がそれを復唱しながら実際の作業を行う方法がある。1人で行うのではなく2人一組で進めることで、分かったつもりになることを防ぐ効果がある。あるいは、1人が作業手順書を見ながら、もう1人は作業手順書を見ずに作業の手順や注意点を言うという方法もある。作業手順や注意点を暗誦しなければならないため難易度は上がるが、正しく覚えていることを確認するためには効果的だ。