ムゲンコンボの手塚武です。この連載では「ソシャゲの秘密」を中心にゲームのプロデュースや企画のことをいろいろ語っていきたいと思います。一般向けにやさしく話していくつもりですので、お気軽にお付き合いください。

iPhone版「ストリートファイターIV」の画面
iPhone版「ストリートファイターIV」の画面
(出所:iTunes Storeに掲載されたストリートファイターIVの紹介画像)

  任天堂の据置型家庭用ゲームの新型機「Nintendo Switch」(以下、Switch)がついに登場しました。僕も早速手に入れて新しい「ゼルダの伝説」を子供と楽しんでます。まだまだ序盤ですけどもオープンワールドだけにプレースタイルが如実に出るゲームですね。僕はゲーム屋なのでつい「ゲームのお約束」を盲信しすぎて逆にザコに殺されることもあるんですが、ゲームをあまりやってない子どもは現実にそこに敵がいると素直に考えてどんなザコでも体力は全回復、遠くから隠れてチクチクと攻撃するスタイルでまだ一度も死んでません。ゲームが上手いはずの僕が下手な子どもに負けてるなんて面白い体験です。

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 さて前回はSwitchのような家庭用ゲーム機とスマホの違いを操作性の観点から解説しました(関連記事:手塚武~「格ゲー」のスマホ移植が超絶難度である理由)。詳しくは前回の記事を読んでいただきたいのですが、ザックリ言うと、スマホのタッチパネルの特性のために、家庭用ゲームのコントローラーの操作の再現が難しいのが移植を困難にしている、というお話でした。

 今回はカプコン時代に僕が作ったiPhone版「ストリートファイターIV」での経験や試行錯誤を紹介しながら、「スマホで昇竜拳を出す」という難題を、どうやって解決したかを説明していきたいと思います。

 そもそもなぜ僕がiPhone向けにストリートファイターを作ることになったのか? 当時僕は、カプコンのモバイルコンテンツ開発部長として「iモード」などのケータイ向けゲームを開発していました。実はiPhone用ゲームも秘密裏に開発していましたがまだ恐る恐るという感じ。対外的にも公表しておらず、本格的にそちらに舵を切るには至っていない状況でした。

 そこに現れたのが当時、国内で唯一iPhoneを販売していたソフトバンクのとても偉い人と、ゲーム会社を運営しているその弟さんでした。「カプコンさんもぜひiPhone向けゲームを開発して下さい」「カプコンと言えば『ストリートファイター』ですよね?」「どうせやるなら最新版(ストリートファイターIV)でやりましょうよ」と、熱烈にお願いされました。ですが正直、僕は気が乗りませんでした。というのも当時、試作を進めていたiPhone向けゲームでもタッチパネルでの操作の克服に苦しんでいたからです。アクションゲームの中でも繊細な操作を要求するストリートファイターはとてもじゃないけど無理だな~と思っていたところだったのです。