よく、痒い(かゆい)ところに手が届くようにと言う。細かな点まで行き届くようにした方がいいということだが、開発も同じこと。まさに、顧客の痒いところに手が届かなくてはいけないのである。

 しかし、あまりに細かいところまで対応するのも大変だし、そうかと言って大雑把にすると叱られる。そこのところの塩梅(あんばい・物事のほどあい)が難しいのである。

 そこで、私がいつも考えているのは、顧客がなかなか手が届かぬところを探して、そこを掻く(かく・こする)のではなく掴む(つかむ)ことである。

 掻くのと掴むのとどう違うかと言えば、掻くのは(痒いところを)こすって顧客の不快感を和らげることだが、掴むというのは、痒いところ以外を掴んで、ほどよい痛さで逸らかす(はぐらかす・外して紛らす)のである。

 逸らかすと言うと、何か問題を外してごまかすように聞こえるが、この場合は意識をずらす、もっと言えば、より大切な方向に誘導するという意味と理解していただきたい。

 つまり、顧客は痒いところがあって不快ではあるが、痒いくらいは大したことではない。顧客にとって、もっと大事なところはここぞとばかり、そこを掴むということだ。

 犬や猫を飼っている人はご存じだろうが、犬や猫は痒いところには自分の手や足が届く。しかし、どうやっても届かない(届いても力が入らない)ところがあって、首のすぐ後ろや背中の真ん中などを掴んでやると、初めての感覚なのだろう、ウットリするのである。

 人間でも同じようなことがあり、自分では絶対に掴めないところをギュッと掴まれたり揉んでもらうと、妙に気持ちがよくなるのと同じである。

 このように、自分では気付かなかった大事なところを掴まれると、それまで知らなかったことに気付いて新鮮な気持ちになる。そのようなところを掴むのである。