田中 栄=アクアビット 代表取締役 チーフ・ビジネスプランナー
田中 栄=アクアビット 代表取締役 チーフ・ビジネスプランナー
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 「エンゲージメント」という言葉を知っていますか? ビジネス用語として使われるエンゲージメントは、「長期にわたって深い関係を築くこと」を意味します。今回はそれがいかに重要であるか、「協力会社」「顧客」「社員」の3つに分けて紹介したいと思います。

 まず「協力会社」とのエンゲージメントです。最近は他社と組んでビジネスを「共創」することが当たり前になりました。近年は専門性が深まり、自社だけで全てに対応することが難しくなってきたからです。加えて、インターネットの普及で他社と緊密なコミュニケーションが取れるようにもなりました。さまざまなデータを共有し、リアルタイムで共同作業を進めることも身近になりました。

 いくら社内で会議を重ねても、具体性のある良いアイデアはなかなか出てきません。「DNA」がそれぞれ違うからこそ「進化」するのです。どんなパートナーと組むか、そしてどれだけ深くつながっているか。それが企業の「価値創出力」を高める鍵になっています。

 続いて、「顧客」とのエンゲージメントです。「取引口座」を開設してもらうことは、「今後も継続的に取引をする」という顧客の意志表示。ネットビジネスでそれに相当するは「アカウント」ですが、その重要性はこれまでの比ではありません。企業と顧客がネットを通じて直接つながる時代になったからです。

 テクノロジーや商品は時間とともに変わっていきますが、1度築かれた顧客との関係はそう簡単に変わることはありません。当然のことですが、お金を支払ってくれる顧客がいるからこそ企業は存続できます。顧客とどれくらい深くつながっているか。信頼を得てどれくらい「ファン」を持っているかは、その企業の「持続可能性」に直結するものです。

 米国のインターネット通販会社米Zappos(ザッポス)社は、顧客とのエンゲージメントで最も成功した会社の1つとしてよく知られています。同社の特徴は、電話のカスタマーサービスに徹底的にこだわっていること。ザッポスのカスタマーサポートは顧客との会話にとことん付き合います。数時間にわたって話をすることも珍しくありません。自社に希望の商品がない場合は、顧客に代わって他のWebサイトで探すことまでするそうです。

 ところが、実は電話経由での売り上げは全体の5%程度とごくわずか。常識的に考えれば「そんなムダなコストを掛けるのはやめろ!」となることでしょう。でも、ザッポスの考えは違います。電話で話すのは販促活動の一環と捉え、顧客に喜んでもらうことを重視しているのです。

 「YouTube」や「Facebook」などが当たり前となり、今や個人が「メディア」を持つ時代です。口コミがデジタルになってあっという間に流通します。「素晴らしいサービスを提供すれば、広告を出さなくても顧客が自然に宣伝してくれる」という新しい考え方です。実際、Zappos社の売り上げの8割はリピーターからと言われています。